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【箱根駅伝2026】「気づいたら國學院。後半の國學院」出雲駅伝2連覇の裏にあった「区間配置の妙」と「前半区間の好走」 (2ページ目)

  • 杉園昌之●取材・文 text by Sugizono Masayuki

【大エースのような走り。あっぱれです】

 その後輩の奮起に触発されたのは、野中恒亨だ。人一倍責任感の強い3年生は、背中で見せることを誓っていた。チームのために襷を運んできた尾熊をはじめ、メンバー外となり、神奈川の寮で見ている後輩たちの顔も頭に思い浮かべた。

「先輩が緊張しながら走っていると、カッコよくないですよね。やっぱり、楽しんで走らないと成長もないので」

 3区は各大学のエースクラスが集まる主要区間。スタートリストを見れば、持ちタイムではかなわないランナーも並ぶ。野中の10000mの自己ベストは28分17秒98。当初、27分台で走る留学生たちは勝負の対象外にしていたが、走る前に前田監督から「流れを変えてこい」とハッパをかけられ、気合が入った。

 負けん気は人一倍強い。1年時からエース級の先輩たちに対抗心を燃やし、面と向かって「勝ちますので」と宣言してきた男である。今春、絶対的なエースの平林清澄(現ロジスティード)が卒業し、「自分がエースになるんだ」という覚悟も芽生えた。いざ走り始めると、ケニア人の猛者たちと並走。2位集団のなかで城西大のヴィクター・キムタイ(4年)、創価大のスティーブン・ムチーニ(3年)らと堂々と渡り合う。

「めちゃくちゃきつかったですが、思ったよりも離されなかった。ついていきやすいペースだったのかなと。途中から余裕があったので、これはいけるんじゃないのって。すごく楽しかったですよ」

 終盤の残り700mからキムタイがスパートをかけると、懸命に後ろを追いかけた。ラスト50m付近で早稲田大をかわし、2位まで順位を押し上げる。区間賞こそキムタイに譲ったが、区間2位の快走。4区の辻原輝に襷をつなぐと、右拳を突き上げながら雄叫びを上げた。果敢に勝負を挑む姿を見ていた前田監督は、思わず目を丸くした。夏合宿では決め手となるエースがいないと口にしていたが、前言を撤回するようにまくし立てた。

「大エースのような走りをしてくれました。あっぱれです。あそこですべてが変わった。流れがひっくり返りましたから。これは『もう来たな』と。4区で先頭に立ち、5区で後ろを離して、6区で逃げきるという作戦だったので。野中の走りは想定を超えていました。サプライズです。強い留学生たちと互角以上に戦ったんで。27分06秒88の学生記録を持つ(リチャード・)エティーリ(東京国際大3年/区間3位)にも勝ったんですよ。本当にすごかった」

 出雲ドーム前の壇上で優勝インタビューを終えたあと、歩きながら何度も「すごい」という言葉を繰り返し、手放しで褒めた。最高のお膳立てから得意の後半区間へ。ここからミスひとつ出さないのも、國學院の強さ。そして、驚きはまだ続いた。

つづく

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