【東京世界陸上・記者の推し選手】2種目出場の田中希実、海外転戦で身につけた「積極的なレース」に注目! (4ページ目)
●落合晃(駒澤大)男子800m
●久保凛(東大阪大敬愛高)女子800m
800mでは、ふたりの10代選手が世界に挑戦する。
19歳の落合は、2024年7月のインターハイで1分44秒80の日本記録をマークした。そこからは世界陸上の参加標準記録(1分44秒50)の突破を目標に掲げ、駒澤大入学後は大八木弘明総監督が率いるGgoatで練習をするようになった。
今年7月の日本選手権では、1周目は日本記録と世陸の標準記録をクリアするペースだったが、2周目に落ちた。終始先頭を走るも1分45秒93に終わった。レース後には「スピードもスタミナもまだまだです」と肩を落としたが、開催国枠の基準はクリアし、今大会の出場枠を得た。10代での出場はとてつもない経験になる。
世陸はタイムよりも勝負重視のレースになる。体のぶつかり合いもあるなか、屈強な外国人勢相手にどれだけ戦えるか。「(自己ベストと標準記録の間にある)0秒30の悔しさをレースにぶつける」と落合は言うが、それを実現できれば予選突破は可能だ。日本記録を更新して、大八木総監督を男泣きさせる走りを見せてほしい。
もうひとりの10代である久保は、昨年の金栗記念800mで田中希実に競り勝ち、2分05秒35で優勝。続いて静岡国際陸上800mでは2分03秒57の高校歴代3位、U18 記録を更新し、俄然、注目を集めた。
当初は「サッカー日本代表の久保健英のいとこ」という扱いも多かったが、その後も結果を出し続けることで「久保凛」として認知されるようになった。同年6月の日本選手権の800mで優勝。続いての記録会では、19年ぶりの日本記録更新となる1分59秒93のタイムをマーク、日本人選手として初の1分台突入を果たした。
今年5月のアジア選手権では2位、7月の日本選手権では1分59秒52で自己ベストを更新して2連覇。右肩上がりで成長を続けている久保のすごさは、なんといっても体幹の強さにある。レース後半、疲れてくると頭や体が揺れてくるものだが、久保の頭は固定されているかのようにいっさいブレない。そのため、スピードを高い次元で維持することができる。
決勝進出には、日本記録を超える走りが必要になる。ただ、日本のレースでは、いつも最初から最後までひとり旅だが、今回は海外の選手が引っ張ってくれる。レース展開が異なるだけに久保の力がより発揮される可能性が高い。
「どんな選手にも食らいついて、ベストを出すことが目標」と語る17歳に失うものはない。日本、いや、世界の陸上界にフレッシュな風を吹かせてほしい。
著者プロフィール
佐藤俊 (さとう・しゅん)
1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)、「箱根5区」(徳間書店)など著書多数。近著に「箱根2区」(徳間書店)。
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