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【陸上】桐生祥秀は「厚底スパイク」に本格対応して8年ぶり100ⅿ9秒台「走り方も感覚もまったく違う」 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

【薄底好きだった桐生が下した厚底への変更】

 2017年9月に日本人初の9秒台となる9秒98を出して以来、8年ぶりの9秒台を出した桐生。高校3年だった2013年4月に10秒01を出して以降、日本短距離の牽引者として走り続けていたが、世界陸上の100m代表の座は2019年 ドーハ大会が最後で、2021年東京五輪は4×100mリレーのみの代表に。2022年には大学2年時に潰瘍性大腸炎が発症していたことを明かして6月の日本選手権以降は休養。昨年はシーズンベストが10秒20に止まり、パリ五輪も個人種目での出場を逃し、リレーでの出場となっていた。

 そんな桐生が昨年の秋から取り組んできたのは、今や世界の主流になっている厚底スパイクへの本格的な対応だった。

「走り方も感覚もまったく違う。僕はどちらかというと薄底が好きだったので、慣れるまでには時間がかかったけど、やっぱりその武器を手にしなければ......。厚底が世界で主流になってからはウサイン・ボルト選手(世界記録保持者)を除けば世界のアベレージはたぶん上がっていると思うし、日本人でも高校生などの厚底世代というか、薄底を履いたことない人たちが結構タイムを出している。だから自分の感覚を少し裏切ってでも厚底に慣れることを、この1年間はやりました」

 桐生は私生活から厚底を履いていた。普段履きシューズやスリッパも含めて10足ほどいろいろ試した。「日常生活でも靴によって反発が違うので、いろいろ履いて『この感覚は歩いていてもいいな』と判断したり。最初は厚底を履くだけでも疲れて、散歩をしてもふくらはぎなどが張り、慣れるのに本当に時間がかかりました」と笑う。

「力の使い方やタイミングは、もう薄底を忘れたぐらい違いますね。やることが全然違ってくる。反発というのはある程度靴がやってくれる(起こす)ところもありますが、薄底の時は中盤や後半でスピードが上がってくる時に若干自分で足を上げて反発をもらうという動きがありました。でも、厚底で足を上げ過ぎると反発で上にいったり、下に踏み過ぎるとタイミングが長すぎたりする。そこはレースをやっていても『違うな、違うな』というのはちょっと続きました」

 今年は3月の記録会から厚底を使用しているが、4月の織田記念でも前日練習では力をあまり使わないスタートからうまく加速し、10秒0台は確実に出せそうな走りをしていた。事実、予選では追い風2.7mながら10秒06で走った。だが決勝は勝負を意識して力みが出たのか10秒15で3位という結果だった。

「アキレス腱痛の影響でジャンプ系の練習が2020年くらいから3~4年、ちゃんとできていなかったけど、去年の秋くらいからできるようになったことが、現在いい状態でいれる要因。ひどいときは朝起きたら片足で風呂場に行き、熱湯で足を温めてから超音波を当てる生活がずっと続いていて、競技以外でもつらかった。でもジャンプ練習をして力を使わなくても上にいく動作ができたことで、スタートで力を使わなくても前に進むようになったのだと思う」

 織田記念後、桐生は明るい表情でそう話していた。

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