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野口みずきが語る日本の女子マラソン黄金時代「私がアテネで勝てたのも、よきライバルがいたからこそ。バチバチしていました」 (2ページ目)

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun

【コースの美しさとトップで走る自分に酔いしれていた】

 快調に走り続けた野口が「優勝できるかも」「金メダルを獲れるかも」と思ったのは40kmに差し掛かった時だった。沿道を並走してくれるチームメイトや友人の姿も見えた。

「(高校卒業後に入社した)ワコールを一緒にやめた友人が、ケガをしていて走れないはずなのに並走してくれていたんです。それを見た時、なんか胸が熱くなってしまって。しかも、夜になって、私の前には誰もいなくて、両サイドの街灯がコースを照らして光の道みたいになっていたんです。その美しさとトップで走る自分に酔いしれてしまいました(笑)」

 スポットライトに照らされたようなコースを走っていると、徐々に光り輝く五輪の大きなマークが見えてきた。ゴールのパナシナイコスタジアムが近づいてくると、スタジアム内がざわついているような空気を肌で感じた。

 1カ月前に試走した際は、通訳がスタジアムの警備員に「この子が1カ月後にここを走り、ゴールする予定なので見せてくれないか」と交渉してくれた。だが、当の野口自身は、戦う前に入ってはいけないと思い、頑なにそれを拒んだ。そのスタジアムにようやく入れる瞬間が近づいてきた。

「スタジアムに入るとすごかったですね。みんなが大歓声で迎えてくれて。特殊な(形状の)スタジアムのせいか、声が響き渡るんです。(シドニー五輪での)高橋(尚子)さんのレースを見て、あれからずっと思い描いていたシーンだと感激しました。でも、半周回ったところで初めて後ろを振り向いて2位との差を確認すると、ヌデレバ選手が来ていて、『危ない』って思って、そこからは前だけを見て、全力で走りきりました」

 野口は左手を上げるガッツポーズでゴールテープを切った。前年の世界陸上では19秒差で敗れたヌデレバに、アテネでは12秒差をつけて勝った。

「このままゴールラインを越えたら、この1年かけて準備してきたものとか、レースも含めてすべて終わってしまうのかなと少し寂しい気持ちになりました。でも、ゴールした時は、やっぱりうれしかったです。ガッツポーズは考えていました」

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