有森裕子がショックを受けた小出義雄監督のひと言 バルセロナ五輪で銀メダル獲得後に「次は駅伝だ」 (3ページ目)
【私の目標は駅伝じゃない】
目に焼きついていたのは、前を行くエゴロワの後ろ姿だった。
「エゴロワは、あの坂をものともせず、胸を張って上り、競技場の前では私のラストスパートにもひるまず、前を行った。女性版の瀬古(利彦)さんみたいな安定感抜群の後ろ姿を見た時、すごい衝撃を受けました。今の私には何が足りないのか。どうしたらあんなに安定感がある走りができるのか。もっと強くなるためには、どうしたらいいのか。そのことをバルセロナが終わってからずっと考えていました」
次のアトランタ五輪に向けて、強くなるためにどうすべきか。筋トレもスピードも必要になる。あれこれ考え始めた矢先、小出監督にこう言われた。
「有森、次は駅伝だ」
その言葉に「えっ?」と思ったという。
「次のマラソンに向けての話をしてくれると思ったので、『えっ、駅伝ですか? 駅伝に戻らないといけないんですか?』と思いました。正直、すごいショックでした。チームにはトラックや駅伝を頑張る選手もいますが、私の目標はそれじゃない。五輪でメダルを獲れて、マラソンでもうひとつ上を目指していくのを当たり前に思ってくれないんだ。メダルを獲ったということは、どういうことなんだろうっていう疑問がわいてきたんです」
有森は、あくまでもリクルートの選手。チームの方針に従うのが基本であり、それが駅伝であれば走らなければならないだろう。だが、メダリストになり、4年後に向けて、よりマラソンに特化した練習を積んで勝負していきたいという気持ちを理解してもらえず、何事もなかったかのように駅伝を命じられたことに悔しさが募った。有森の真っすぐな視線は、チームからすればわがままな態度とみなされ、監督やチームメイトとも噛み合わなくなり、孤立を深めていった。
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