駒澤大、全日本と箱根駅伝へ向けて高まる機運 出雲3連覇を逃すも「ただでは転ばない」 (3ページ目)
駅伝デビューは実現できなかったが、出雲の後に開催された出雲市陸協記録会(5000m)ですばらしい走りを見せたのが、谷中晴(1年)だ。
谷中は金谷紘大(4年)とともに出場し、序盤から先頭集団について攻めた。
「けっこう位置取りがうまくできて、4000mぐらいまでは落ち着いて力を溜めて走ることができました。『ラスト2周で行け』って言われていたのですが、先に青学大の白石(光星・4年)さんに行かれて。でも、そこで負けちゃいけない。スパートをかけないと全日本のメンバー選考に入っていけないと思ったので、最後は指示どおりにできたと思います」
谷中は13分49秒71で昨年のインターハイ東北大会以来の自己ベスト、トラックでのレースも1年ぶりという中での快走だった。
「出雲駅伝で篠原さんの涙があったので、金谷さんと絶対にワンツーを取るというプランでした。結果的に1位と5位(金谷・13分57秒12)でしたけど、13分台で揃えることができましたし、自分はトップを獲ることができたので、そこは合格点をあげられるかなと思います」
谷中は桑田駿介(1年)とともに大きな期待を背負って駒澤大に入った。だが、高3の秋に膝を故障し、新入生合宿でも膝に痛みを感じ、5月まで走ることができなかった。その後も違う箇所の故障を繰り返し、本格的に走れるようになったのは7月末だった。
「前半シーズンは走れなかったので悔しかったですし、同期の桑田の活躍も刺激になりますが、同時に焦りにつながるところがありました。今回ようやくユニフォームに袖を通すことができたので、すごくうれしかったです」
谷中の走りを見た藤田監督も笑顔だった。
「出雲駅伝で負けた後、『どういうレースをするのかが大事。記録はそこまでこだわらないから、とにかく勝て。それが次のレースに向けて駒澤の意思表示になるから』って送り出したんです。谷中は非常によかったですね。しっかりと勝ち切った。それがすごく大事です」
まだ体の線が細く、故障しないように目を配りながら強化育成していくことになるが、谷中について、藤田監督はこう語る。
「高校の時から一匹狼で、学法石川の増子(陽太)君というすごい強い選手に絶対に負けないと勝負を挑んで勝ち切ってきた男です。ロードが強く、大八木総監督に言わせれば『福島の人間だから』ということですけど、ゆくゆくは桑田とダブルエースになる可能性があると思います」
谷中は「全日本を走りたい」と意欲的だが、藤田監督も「全日本は順調にいけば使える」とルーキーの起用に前向きだ。
勝負には負けたが、この大会を通して駒澤大は得るものは大きかった。
「ただでは転ばない」
藤田監督の言葉どおり、次戦でやり返す準備が着々と整いつつある。
著者プロフィール
佐藤 俊 (さとう・しゅん)
1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。
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