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箱根駅伝総合優勝に挑む國學院大・前田康弘監督が語る「強豪校」に至るまでのスカウト術 (2ページ目)

  • 杉園昌之⚫︎取材・文 text by Sugizono Masayuki

【互いのミスマッチを回避するために】

 そのなかで、前田監督はどのように高校生たちに声をかけていくのか。

「まずは國學院の売りは何なのかをはっきりさせること。うちの最大の目標は、箱根駅伝優勝です。そこに向けて取り組みながら、意識や素質のある選手は大学時代からマラソンにもチャレンジできますよ、と。口だけではなく、実際、いまのチームでは平林がその姿を示してくれていますから」

 ただ、速いタイムを持つ選手たちに、手当たり次第、声を掛けているわけではない。走り方に加えて、動きの柔らかさ、積極的なレース運びをしているかどうかなど、チェックすべき項目は多岐にわたる。その選手が描く将来のビジョンも、大事な要素のひとつとなる。

「箱根駅伝で活躍したい、将来マラソンに挑戦したいと言うのであれば、それなりの練習をしないといけません。早い段階から仕掛けていかないと、箱根で戦うのは簡単ではないです」

 そして、何よりも人間性をしっかりと見る。本人と何度か話すだけでは見えない部分もあるため、大切にしているのは高校の陸上部の先生と密なコミュニケーションを取ることだ。

「選手の中身について、最も知っているのはやっぱり身近な先生です。深い信頼関係を築くことで、生活態度、競技志向などの正確な情報をもらえます」

 國學院大のスカウトは、一方通行ではない。ミスマッチが起きないように大学のありのままの姿を見てもらい、最後は本人の判断を仰ぐ。百聞は一見にしかず。寮に招き、そこで生活する選手たちと一緒に食事をとり、同じサイクルで練習もしてもらうという。

「どの大学もスカウトする時は、よいところばかりをアピールしますので、うちは一度寮に来てもらい、チームの雰囲気を肌で感じてもらうようにしています。先輩と直接話すほうが嘘もないと思います。入学したあとに『こんなことは聞いていなかった』となれば、監督、スタッフとの間に溝ができてしまう。それはお互いにとって、よくありませんから」

 國學院大が箱根駅伝で初めてシード権を獲得したのは、5度目の出場となった2011年(第87回)大会。いまでは新興勢力から強豪になりつつあるが、嘘のないスカウトで戦力を充実させてきた。

 國學院の新入生では史上初の5000m13分台ランナーの山本歩夢(現・4年の副主将)が入学してから3年――。

 今年度は1年生から4年生まで、いずれの学年にも世代トップクラスの選手を抱えている。4年生は平林、山本の二本柱、3年生は今年3月の日本学生ハーフマラソンで優勝した青木瑠郁をはじめ箱根経験者が4人、2年生にも1年目から箱根で区間10位以内にまとめた田中愛睦、吉田蔵之介ら4人の実力者がいる。新入生に目を向ければ、浅野結太、飯國新太、中川晴喜、尾熊迅斗の4人が13分台ランナーだ。ここからの成長次第では、さらなる戦力の底上げが期待できる。

 まさに勝負のシーズン。好転するスカウト活動と自信を持つ育成の歯車ががっちり噛み合った。地道にコツコツと國學院大の基盤を築いてきた前田監督の今年度に懸ける思いは強い。

「今年度は最大のチャンスだと思っています。スカウトを好循環させていくうえでも4年、5年に一度は、三大駅伝のひとつでも勝たないといけない。世間の人たちは青学、駒大が勝つと思っているかもしれませんが、その前評判をひっくり返したい。そうすれば、また大きなインパクトを残せますから。善戦するけど、2強の牙城を崩せないというイメージはつけたくないです」

 勝つ意欲にあふれているのは、走る選手も同じだ。「一緒に箱根駅伝で初優勝しよう」という熱い口説き文句に心を動かされた者たちが全学年にそろう。春のトラックシーズンから勝負にこだわり、駅伝を見据えて準備を進めている。悲願達成へ、機は熟した。

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