下田裕太「もう走れません。今年で陸上やめます」...ドン底状態からMGC出場権を勝ち取るまでに奮い立たせた恩師の言葉 (4ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 松尾/アフロスポーツ

【パリ五輪は28歳。最高の走りができるはず】

 下田は、22年東京マラソンで2時間835秒(19位)で走り、5月にカナダのオタワマラソンで2時間950秒で総合3位となり、ワイルドカードでMGC出場権を獲得した。

 MGC1015日に開催され、男子は現在67名の選手が出場予定だが、ペースメーカーがつかない勝負レースになる。

1発勝負ですが、60名以上走るので、誰かしらが前を行きます。その選手に自分がどうついていくのか。そこで120%の力を発揮できれば、3番以内に入れるんだっていうメンタルを持つために、今できることをやっていくしかないですね」

 MGCに向けて今シーズン、下田が重視していたのが6月の仙台国際ハーフマラソンだった。MGCに参戦する選手が多数参加し、いろんなことを確認するためのレースという位置づけだった。

MGC出場選手を始め、強い選手が出ている中、自分がどういう位置で走って、どんな感覚で走れるのか。それをすごく重視していました。いろいろ収穫を得られて、良かったです」

 下田は総合6位、日本人2位となり、暑さと風がある中、最後までキロ3分ペースを崩さずに走れたのは自信になった。また、ペースの上げ下げのところでは、自分はマイペースで行きながらも最終的には前に行けるような走りを確立しないといけないと課題も見つかった。

「チェックはちゃんとできたので、あと数か月、どうやって本番に合わせていくのか、考えていきたいですね。これだけ多くの強い選手と一緒にレースで走れるのは、すごく楽しみ。僕の陸上人生のターニングポイントのひとつになるのは間違いないです」

 MGCには、GMOのチームメイトや青学大の先輩後輩も出走する。

「まぁ中村祐紀(住友電工/大学で同期)には負けない(笑)。(吉田)祐也は、練習を見ていたりすることがあるのですけど、強いなって思いますね。ライバルではあるんですけど、もう一ファンとして、祐也には結果を残してほしいぐらいな感じなので、MGCではお互いに頑張って走りたいですね」

 大きな関門を乗り越えるとパリが見えてくる。

「パリ五輪は、僕が28歳という一番いい年齢で迎えられる五輪だなって思っていて。自分が史上最高の走りをするなら、ここでしかないって思います」

 最高の走りができれば、きっと何かを変えられるはずだ。

プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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