神野大地「途中で目標も目的も失った。もうやめようかなと」万全の状態でのぞんだレースでまさかの失速 (3ページ目)

  • 佐藤俊●文・写真 text & photo by Sato Shun

 神野はしばらくそのショックから回復できなかった。気持ちをなんとか押し上げることができたのは、仙台ハーフから1週間後に行なわれた神野のランニングチーム「RETO Running Club」の合宿のおかげだった。

「(合宿先の)富士見に行く車中では、アーって感じで全然気持ちが切り替わっていなかったんです。でも、合宿でメンバーと一緒に練習するなかで、気持ちが徐々に上がっていきました。みんな、市民ランナーですが、相当の覚悟と熱い気持ちを持って練習している。その姿を見ていると、なんか伝わってくるものがあって......。自分も競技に向き合って、もっと頑張ろうという気持ちにさせてくれたんです。いやー、ほんと、RETOがあってよかった(笑)。RETOがなかったら、まだしばらくひとりでこもって、いろんなものを抱えて、気持ちの切り替えがなかなかできなかったと思います」

 神野は、自らのチームのメンバーに救われた。

 6月、7月は仙台ハーフで出た課題に取り組む予定でいたが、それができなくなったので、プランを変更せざるをえなくなった。課題を明確にするために、ハーフなどのレースにもう一度、出走することも考えた。だが、コーチの藤原新とミーティングをした結果、レースには参加せず、地道に基礎練習に取り組むことにした。

「泣いても笑ってもMGCまで、あと4カ月。MGCが終わったあと、ああしておけばよかったとか、そういう後悔だけはしたくないんです。これからは、すごい成果を求めるというよりは1日1日、決めたことを淡々とこなしていく。それが最終的に結果につながると思うんで、これからも毎日0.1%の積み重ねを続けていきます」

 神野は、落ち着いた表情で、そう言った。

 もしかしたら今も100%吹っきれていないかもしれない。目標、目的を達成できなかったことを引きずっているかもしれない。でも、自分に言い聞かすように話をする表情からは、「もうやるしかない」という覚悟が見てとれた。競技は、思いどおりにいかないことのほうが多いが、そうした時の対応力こそアスリートには求められる。

 神野は、今、その力を試されている。

(つづく)

PROFILE
神野大地(かみの・だいち)
プロマラソンランナー(所属契約セルソース)。1993年9月13日、愛知県津島市生まれ。中学入学と同時に本格的に陸上を始め、中京大中京高校から青山学院大学に進学。大学3年時に箱根駅伝5区で区間新記録を樹立し、「3代目山の神」と呼ばれる。大学卒業後はコニカミノルタに進んだのち、2018年5月にプロ転向。フルマラソンのベスト記録は2時間9分34秒(2021年防府読売マラソン)。身長165cm、体重46kg。

プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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