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神野大地「途中で目標も目的も失った。もうやめようかなと」万全の状態でのぞんだレースでまさかの失速 (2ページ目)

  • 佐藤俊●文・写真 text & photo by Sato Shun

 神野は、万全の状態で仙台に乗り込んだ。

 仙台ハーフには、目標と目的があった。

「目標は単純に勝ち負けのところでMGC参加の選手と勝負して勝つこと。目的は気温が高く、10月のMGCのレースと気候的に似たコンディションのなか、どこで足がきつくなるのか。きつくなるとしたら殿筋にくるのか、(大腿)四頭筋にくるのか、腰にくるのか、フィジカル的に弱い部分を確認することでした。トラックだと、同じペースでスパイクを履くので、疲労の出方が違う。ロードで、しかも勝負のかかったレースでは、どこに弱さが出てくるのか。それを確認して、MGCまでに弱い部分の強化をしていこうと考えていました」

 トレーナーの中野ジェームズ修一とのトレーニングでフィジカルが強くなっていることは実感していたが、MGCに向けてより強くなるためには、弱い部分をいかにつぶしていけるか。その積み重ねでしか強くなれないと神野は信じていた。
 
 レースは午前10時05分、25.5度、湿度38%というコンディションのなか、スタートした。

「スタート直後の動きは悪くなかった」

 丸亀ハーフや福岡クロカンは、調子がもうひとつで「前で勝負するのは難しい。自分なりに追い込めればいいや」と思って出走し、前につけた感じだった。今回は、状態がよく、思いきり戦える。そんな自分への期待感と高揚感を持ってスタートすることができた。

 だが、1キロを過ぎた時、異変を感じた。

「呼吸が首のあたりから肺に入っていかず、スピードが上がらない。まさかって不安が大きくふくらみ、なんで呼吸が入ってこないんだって思って走っていたら、先頭集団との距離がかなり開き始めて......ここで遅れたら終わってしまう。でも、呼吸が入ってこない。めちゃくちゃあせりました」

 先頭集団は5キロを14分59秒で走っていた。スローで、練習先のひとつである長野の富士見高原でアップ&ダウンのある林道コースを走るのと同じタイムだった。そこに、ついていけないわけがなかったが、神野は徐々に遅れていった。

 10キロを超えると、腹部に鋭い差し込みが出た。

 今年に入って丸亀ハーフから日体大記録会まで5レースを走ったが、1度も差し込みは起こらなかった。だが、大事なレースで呼吸の問題に加え、腹部に痛みが出て、15キロ地点で日本人の先頭集団からは4分前後、遅れていた。このままでは目標も目的も達成できない。そう思い、途中棄権も考えた。

「僕は特別招待選手として走っていたんですが、途中で目標も目的も失ってしまった。もうやめようかなと思いましたが、できなかった。応援してくれる人から見れば、途中でやめたら嫌な気持ちになると思うんです。そこはプロランナーとして譲れないところ。気持ち的にはきれかけていたけど、目は死んでいない。ここからよくなれば前に行くぞという気持ちで走っていました」

 神野は、最後まで走りきった。

 フィニッシュしたあと、苦悶の表情を浮かべ、トラックに一礼をして控室に戻った。

 今回、なぜ呼吸が苦しくなり、差し込みが起きたのだろうか。

「正確にはわからないですが、仙台まですごく順調で、ここで腹痛が出なければ絶対に走れると思ったんです。そう思ってしまったせいか、これまでの5戦のように精神的にリラックスした状態で臨めなかったのかなと。さらに結果を出すとか、いろいろ考えすぎてしまったことが知らない間にフィジカルに影響して、呼吸や差し込みが出てしまったのかなと思います」

 強烈な差し込みは、これまでも神野の行く手を何度も阻んできた。

 いい練習をして、自信をもってレースに臨んでもそれですべてが壊された。レースに出るたびにまた起こるのではないか。その恐怖たるや相当のものだっただろう。

 何とかしなければと思い、原因究明のためにいろんな検査を受け、施術も受けてきた。だが、完全に解消する術は見つからなかった。最近は中野から「考えなくてもいい、変に考えるから出てしまう」と言われ、差し込みという言葉を頭から消すようにしていた。また、腹部への置き鍼も効いていた感があった。

 でも、大事なレースに出てしまった。

「差し込みが出たショックもありますが、それ以上に取り組んできたことの成果を確認できなかったことが本当に残念ですし、悔しかったです」

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