箱根駅伝の素朴な疑問15【レース当日編】。「当日の選手変更」「起床時間」「うしろの選手の気配」「監督からの声」などに専門家が回答 (4ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 松尾/アフロスポーツ/日本スポーツプレス協会

疑問11.監督車(運営管理車)からの監督の声は力になりますか?

神野 なりますね。僕は、原(晋)監督に育ててもらったので、信頼も強かったんです。そんな監督の言葉なのですごく効きましたし、重かったです。僕が3年の時、スタートする前に電話がきて、「キロ3分5秒ぐらいでゆっくり入ればいいから」って言われたんです。スタートして最初の1キロを2分50秒で入ったら「ちょっと早いな。少し落とそうか」と監督車から声がかかりました。でも、次も2分51秒で行ったんです。そうしたら監督から「神野、今日は動きもいいし、調子もいいから、このまま行けっ」と言ってくれました。この時、監督から「あとのことを考えて少し落とせ」と強制的な感じで言われていたら僕は委縮してしまったと思うんです。でも、ふだんの練習から僕のいい時の動きを見ていてくれたので、そこで適切な言葉をかけてくださったのはすごく大きかったですね。

たむじょー 苦しい場面では沿道からの応援もすごい力になるんですけど、やっぱり指導をしてもらっている監督の声を聞くと、もっと頑張らないといけないという気持ちになります。8区を走った時、前に見えている大学があって最初、「3キロで追いつくぞ」と言われて、次に「5キロで追いつこう」と言われたのですが、なかなか追いつけなかった。すると今度は「10キロで絶対に抜くぞ」と言われて、1回追いついたものの自分のエンジンがかからなくて、相手を突き放すことができなかったんです。そうしたら「しっかり離して、自分のペースでいけ!」って言われて、後半になるにつれ監督もヒートアップして声が大きくなっていきました。その時は、もうやらないといけないと思い、必死でした。

疑問12.選手への声かけの言葉は、あらかじめ決めているのですか?

大後監督 決めている場合もあります。最後の苦しいところで、ここで踏ん張らないでいつ踏ん張るんだっていう気持ちになってくれるようなフレーズを考えます。シーズン中に選手を指導しながら、その選手が心を動かす瞬間を観察して、それをメモして、ここぞという時に声かけします。実は前回もいくつか用意していました。一番苦しい時、大好きな祖母を亡くした学生に、「おばあちゃんがお前の肩を押してくれているはずだから」と声かけしようと準備していましたが、その機会を失ってしまいましたので、残念でなりません。

疑問13.監督車(運営管理車)にも沿道の声は聞こえていますか?

大後監督 近年は感染症対策のため、窓を開けるように指示されていますので、よく聞こえる時と、かき消されてしまう時と両方です。聞こえる時は、とても温かい言葉を投げかけていただくこともあれば、厳しい指摘をされることもあります。いずれにしてもファンの方々の熱い声援ですので、耳には残りますよ。

疑問14.なぜ5区、6区はなぜ特殊区間と言われるのですか?

大後監督 5区の山上り、6区の山下り、箱根駅伝の特徴的な区間です。他にあまり類を見ません。山を走るにはどちらの区間とも技術が必要になってきます。5区は走行スピードが遅いですが、心肺に高い負荷がかかり脚の持久力も求められます。ストライドは広くなくとも、リズムよく走らないといけません。気温低下による対応力も必要です。6区の山下りはスピードが重要な区間です。シューズの着地時にブレーキをかけずにスピードを維持する技術が必要になります。5区は選手の出来栄えで最もタイム差が開く区間でもあります。快走もあれば、大ブレーキもある。展開を大きく変えられる区間です。平坦な区間とは異なる特徴と技術が必要。それが特殊区間と呼ばれるゆえんだと思います。

神野 日本にはいろんな駅伝がありますが、800m上って、800mを下る駅伝って箱根駅伝だけなんです。他の駅伝にはない特別な区間なので、そう呼ばれているのだと思います。

たむじょー 駅伝でここまで上ったり、下ったりするのは、箱根駅伝以外ないと思うんです。他にないということは、対策がなかなかしにくいですし、走れる人も限られてきます。誰でもいいわけではなく、山の上り、下りに特化した能力がある人が走るので、特殊区間と言われるのではないでしょうか。でも、そこが魅力というか、見所でもありますね。

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