箱根駅伝「史上最強の留学生ランナー」イェゴン・ヴィンセントの素顔。コーチが明かす驚愕の進化と留学生ならではの苦労 (5ページ目)

  • 和田悟志●取材・文 text by Wada Satoshi

【日本人選手にも大きな刺激】

 ヴィンセントが日本人選手に与える影響も大きかったに違いない。ヴィンセントの1年時に4年生だった伊藤達彦(現Honda)はその後、10000mで東京オリンピックに出場した。

「達彦は、同学年の相澤選手に挑み続けて、あそこまで成長しましたが、チームメイトにヴィンセントがいたので、ひとりではできない練習ができました。それに、ヴィンセントについていけば、ここまでいけるっていう指標にもなっていたと思います。

 箱根駅伝は昔から『箱根から世界へ』と銘打っていますけど、その世界とは何ぞやって考えた時に、ヴィンセントっていう世界が実態としてあるんですよね。つまりは、世界が見える、というか......。

 彼に勝たなきゃ世界で勝てない。彼に挑まないと世界に挑めない。そういった気持ちにさせてくれる存在なのかなと思います」

 駒澤大の田澤廉(4年)は、ライバルを聞かれて「しいて言えばヴィンセント」と答えている。田澤にとっても、ヴィンセントは世界を目指すうえでの指標となっているのかもしれない。

 とはいえ、ヴィンセントもまた世界のトップを目指すひとりのランナー。今季たびたびケガに苦しんだのは、具体的に世界を意識し始め、練習の質を上げたことも一因にあった。彼自身、殻を破ろうとしている最中にあるのかもしれない。

「練習を見ていて、彼の限界が見えることはなかったんです。全力疾走しているのではなく、ゆっくり巡航しているような感じで。いつもクルージングしているって思いながら見ています。彼がもっと出力を上げられるような能力を身につけたら、もっともっと上にいけるんじゃないかなってすごく感じますよね。時間をかけて世界のトップ選手になってほしい」

"ヴィンセントという世界"。その走りを箱根路で見られるのも、今回が最後となる。12月29日の区間エントリーでは補員に登録されたが、おそらく当日変更で往路の主要区間に起用されるはずだ。絶対に見逃すわけにいかない!

写真提供/中村勇太(東京国際大)

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【著者プロフィール】
和田悟志 わだ・さとし 
ライター。1980年、福島県生まれ。大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。その後、出版社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やランニングをはじめ、スポーツを中心に取材・執筆をしている。

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