大迫傑が分析する成功の秘訣と「オレゴン・プロジェクト」加入の成果 (3ページ目)

  • 酒井政人●文 text by Sakai Masato

「"たら・れば"の話はあまり考えないようにしています。今回は2時間5分50秒で走った。僕の力はこれぐらいだったとしか捉えていないですね。次のレースで条件に恵まれたとしても、自分の中では一気に2時間4分台を狙うのではなく、冷静に現実を見つめて、自分のやるべきことをやるしかないと思っています」

 大迫は選手として「強さ」を求めているが、タイムについては、どのように考えているのだろうか。

「僕の中で『強さ』と『速さ』はイコールであると思っています。でも、『速さ』は『記録』なのかというとそうではありません。記録は気象条件、ペースメーカー、他の選手の動きなど、自分以外の要素が影響されます。自分がコントロールできないことを考えても労力の無駄使いなので、自分が常に強くあるということを意識してやるべきじゃないかと思っています。まずは、今までのトレーニングをしっかり継続していくことが大切です。そのなかで少しずつ量を増やして、質を上げていく。自分が強くなるためには、そういう単純なことを繰り返していくしかありません」

 大迫が強くなった理由は、米国に渡り、オレゴン・プロジェクトでトレーニングを積んだことが大きいのは間違いないだろう。しかし、大迫は少し違う"思い"を持っている。

「米国に行かなかったら? 僕がやってきた道はこれしかないので、何ともいえないです。ケニアに行っていたらもっと強くなっていたかもしれません。『どこに行き、何をやったか』ではなく、『誰がやったか』がすごく大事だと思っています。

 たとえば、コーチがよくない、などと原因を外に考えるのではなく、一番大切なのは、自分がどうやりたいのか。極端な話、強くなる選手はどこに行っても強くなるし、強くならない選手は強豪チームに入っても強くならない。結局は、どういう気持ちで何をやるかだと思います」

 9月のベルリンマラソンでは、エリウド・キプチョゲ(ケニア)が2時間1分39秒という驚異的な世界記録で走破している。大迫は2時間1分台の世界をどのように感じ、今後はどんな高みを目指していくのだろうか。

「2時間1分台は本当にすごい記録です。でも、大きく世界が違うわけではないと思っています。僕が追い求めている進化の先に2時間1分台はあると感じているからです。僕が1分台に届くかと言われれば、それは無理だと思うんですけど、自分のやっていることを次の選手につなげることで、その領域に近づいていくんじゃないでしょうか」
 
 大迫傑が進む道にどんな未来が待っているのだろうか。彼の終着駅は2020年の東京五輪ではない。もっともっと先を見据えている。

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