100m日本記録保持者・伊東浩司から日本陸上界への提言 (3ページ目)
一方で、2年前から山崎副委員長が中心になって始めた、U-21の有望選手を海外に出して強化する方針は成果を上げている。さらに、今後は若手有望選手を「ダイヤモンドアスリート」に認定して、東京五輪出場を目標に国際経験を積ませる試みや、U-19やU-23の選手を海外の合宿や試合に出場させる計画もある。
伊東氏は「現時点でジュニアが成功しているのは紛れもない事実。その成果を次へつなげるためには、その土台を充実させて、ナショナルチームの強化をしていかなければいけないですね」と、育成と強化を次の段階へ進めていくべきと考えている。
「私から選手たちへの要望としては、マイルリレー(400m×4)の選手にもっと頑張ってもらいたいです。昨年のアジア大会は200mを専門にする飯塚翔太と藤光謙司を起用して優勝しましたが、現状のままだと400mの選手のレベルアップを期待するのではなく、『200mを走れる選手がいればマイルリレーは大丈夫』という考えになってしまいかねない。マイルの場合は400mのタイムも必要ですが、リレーでは200mで通じるスピード感も必要。そうした爆発力を身につけて、800mに特化できる持久力も身につける。どちらも重要です。
その点では選手たちに、複数の種目をやる意識をもっと持ってほしい。たとえば、アジア大会では海外の選手が複数種目に出ていたので、日本もそうなってくればいいですね。だからこそ、100mから400mまで走れる高瀬慧には『日本の顔になるという自覚を持ってくれ』と言ってきました。これからは山縣亮太や桐生祥秀が、100mだけでなく200mを走ってくれそうですから、あとは400mの選手たちが200mを走ってくれることを期待しています」
2015年は5月下旬の世界リレーと6月26日~28日の日本選手権の間に、6月3日~7日にアジア選手権があり、8月下旬の世界陸上前には、7月3日から14日でユニバーシアード、7月12日には3カ国交流陸上もある。そこでの課題を伊東氏はこう語った。
「陸連が『日本をリレー大国にする』と口にしていても、リレーに選手を派遣しなかった大会もありました。また、バトンパスについては、アンダーハンドパスを採用する大会もあれば、オーバーハンドパスを採用する大会もあり、戦略が統一できていない。年間スケジュールを把握したうえで日本短距離としての方針を明確にし、それぞれの大会をうまく強化に活用してほしいと思います」
それぞれの強化策を系統立てていき、来年のリオデジャネイロ五輪につなげていく。それが今、伊東氏が日本陸上界に期待していることである。
プロフィール
伊東浩司
1970年1月29日兵庫県生まれ。
1998年のアジア大会の男子100m準決勝で、現在も日本新記録の10秒00を出した。
1996年アトランタ五輪、2000年シドニー五輪など、多くの国際舞台で活躍。競技引退後は指導者となり、昨年まで日本陸上連盟の男子短距離部長を務めた。甲南大学准教授
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