【陸上】ボルトだけじゃない!陸上競技を盛り上げたロンドン名勝負3選 (2ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by JMPA

 また、感動するというより圧倒されるような強さで世界記録を樹立したのが男子800mのデービット・ルディシャ(ケニア)だ。それまでの世界記録は彼が10年に出した1分41秒01。彼は自らの記録をこの大舞台で破りたいと、大会前に言っていた。

 オープンコースになる100m通過からトップに立つと、早々に他の選手を引き離して400mを49秒28のハイペースで通過。500mを過ぎてからさらに後続を突き放すと、そのまま1分40秒91の世界記録でゴールを駆け抜けた。2位のニジェル・アモス(ボツワナ)との差は0秒82。全員が自己ベストを出すハイレベルなレースでの勝利だった。

 そして最後に、勝負の非情さを見せつけられたのが女子20km競歩。注目は07年世界選手権大阪大会で優勝して以来、5年間メジャー大会で無敗だったオルガ・カニスキナと、09年世界ユースと10年世界ジュニアを制し、カニスキナを5月のワールドカップで破った19歳の新鋭エレナ・ラシュマノワのロシア人対決だった。

 先に勝負を仕掛けたのは女王・カニスキナ。気温22度で陽差しも強い悪条件だったにもかかわらず、スタート直後から大きなストライドでいきなりトップに立ち、2㎞過ぎからは世界記録を上回るペースで歩いた。そして8㎞からは追いすがっていた中国の劉虹(リュウ・コウ)も突き放して独走態勢に入った。

 ライバルのラシュマノワは脚も長く、スピードもある選手。身体能力に恵まれた相手にラスト勝負の展開になるのは厳しいと考えたカニスキナの、大博打(ばくち)といえるレースだった。

 その賭けは見事にはまったかに思えた。12km通過で43秒の大差をつけていたからだ。だがラシュマノワはそこからペースを上げ、ジワジワと差を詰めていく。そして18km通過では17秒差。手足を必死に動かして逃げようとするカニスキナを、ゴール200mほど手前で追いつくと、そこから一気にかわし、7秒差をつけてゴールした。

 記録は1時間25分02の世界記録。カニスキナもそれまでの世界記録に1秒届かないだけの1時間25分09。ふたりともゴール後しばらくは、放心したような表情でコースサイドのフェンスにもたれかかっているだけだった。

 勝負が最優先される大舞台で、マッチレースでありながら記録もついてくるというのはめったにあることではない。それは一時代を築いた27歳のカニスキナの、世代交代を必死に拒もうとする強い意地が作り上げたものだった。

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