車いすテニス・国枝慎吾が涙の金メダル。自信をよみがえらせた試合とレジェンドからの言葉 (3ページ目)

  • 荒木美晴●取材・文 text by Araki Miharu
  • 植原義晴●写真 photo by Uehara Yoshiharu

 今年3月ごろから「グランドスラムより、常にパラリンピックのことが頭にある状態」だった。しかし、全豪、全仏、ウィンブルドンといずれも敗れたことで、追求してきたテニスに迷いが生じていた。

 何度も調整を重ねてきたバックハンドは、パラリンピックの一週間前にようやく安定したばかり。重圧を感じ、眠れない日々が続いていたと、国枝は明かす。目の前にあるのは、苦しく、簡単には進めない道。だが、目指しているのは最高峰の頂点だ。葛藤を胸に留め、「金メダルを獲って、最強を証明したい」と奮い立った。

 その足がかりとなった試合がある。準々決勝のステファン・ウデ(フランス)戦だ。ウデは国枝が尊敬する50歳のレジェンドで、ロンドンパラリンピックの銀メダリスト。61回目の対戦となった試合は序盤、ウデの強打やロブなど多彩なショットに揺さぶられ、リードを許す。

 だが、苦しい場面で頼りになったのが、苦労して取り戻したバックハンドのダウンザラインだった。国枝の代名詞でもあるこのショットが決まり出すと、流れは国枝に傾き始めた。じわじわとウデにプレッシャーをかけ、試合を優位に進めることに成功。

「準決勝の自分に期待が持てる試合だった」

 試合後の国枝の表情には、自信がよみがえっていた。

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