パラ陸上の鉄人から後輩にエール
「向かい風はそのうち追い風になる」 (3ページ目)
とくに、100分の1秒以下の差で競う短距離は、スタートの一瞬の遅れが結果に直結する。永尾さんはこのスタートの技術と反応を磨くため、ひたすら練習に励んだ。2004年のアテネパラリンピックでは4×400mリレー(T53-54)で銅メダルを手にしたが、個人種目では14年の仁川アジアパラ競技大会の100mで銀メダルを獲得するまで、実に15年の月日を要した。
この時、51歳。だが逆に言えば年齢は関係なく、トレーニングの工夫次第で、まだまだ世界と戦えることを証明した瞬間でもあった。このころ、短距離界を席巻しつつあった中国やタイの選手と競い、「最後まで自分の走りを貫けたことは自信になった」と語っていたのが印象深い。
そんな努力の人、永尾さんに「影響を受けた人物」を尋ねると、ふたりの名前を挙げてくれた。ひとりは、「バスケ時代に厳しく教えてくれた」という徳永祐政さん。小柄だった徳永さんは、チェアワークを極め、自分よりも大きな相手に立ち向かう"職人気質"な先輩だったといい、「弱点は強みにできる、ということを教わりました」と永尾さん。「バスケと陸上、競技は違うけれど通じるものがある。たくさん刺激をもらいました」
そして、陸上界では永尾由美さんの名を挙げる。由美さんはソウルパラリンピックのスラローム金メダリストで、永尾さんの妻でもある。永尾さんが現役中は練習メニューの基礎を作り、長年にわたって心身を支えてきた。「タイムが出ない時には、"座り方を変えてみたら?"とか"レーサーの長さを変えてみたら?"とアドバイスをくれた。陸上のことを誰よりも知っているし、冷静に物事を見られる人。壁にぶつかったり、迷ったりというタイミングで、必ず背中を押してくれた」
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