車いす陸上短距離の超人。パラ7回出場の永尾嘉章氏が、ついに引退宣言
引退を決意し、今後は今までの経験を陸上界に返していきたいと語った永尾嘉章氏 国内屈指のスプリンターとして、日本のパラ陸上の短距離界を約30年間にわたってけん引してきた永尾嘉章さん(ANAORI A.C/兵庫県加東健康福祉事務所)が、現役に別れを告げることを決めた。
車いすの中で、もっとも障がいが軽いT54というクラスは、世界でも選手層が厚い激戦区だ。なかでも猛者(もさ)が集まる100m、200mなどの短距離を永尾さんは主戦場としてきた。パラリンピックには7度出場。2004年のアテネパラリンピックの4×400mリレーでは銅メダルを獲得した。それ以降も第一線で活躍し続け、53歳で迎えた昨年のリオパラリンピック100mでは、日本人唯一のファイナリストとなったが、一方で、400mは予選敗退に終わった。完敗に近いレース内容で、その結果が最後まで心に棘(とげ)のように引っかかっていた。
「リオは良くも悪くも、世界のなかの自分の実力が明確にわかってしまった。特に400mでは、今まで持っていたような次のステージへのイメージができなくなった」
引退のきっかけについて、永尾さんはそう語る。
アスリートの引退の理由で"体力の限界"というフレーズはよく聞くが、永尾さんにおいてそれは当てはまらない。もともとの力強い走りに、肩関節の柔軟性、肩甲骨の可動域を向上させる加圧トレーニングの効果もあって、リオ前のシーズンでは、スイスの大会で自身が持つ100mの日本記録を15年ぶりに塗り替え、また別の大会では400mでも日本記録を11年ぶりに更新した。
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