「賞金5000万円? 今、知りました」GⅠ競輪祭で阿部拓真が競輪史に残る大下克上優勝「自分でも『マジか』って感じ」 (2ページ目)
気づけば初の準決勝どころか、初のGⅠ決勝という大舞台へ。勝ち残り、そして賞金ランキング争いを巡って張り詰めた空気が漂う準決勝後の会見場も、阿部の時だけは望外の躍進に終始笑顔が止まらず、ムードを和ませた。
精神と肉体を削っての激戦ゆえ、選手から「ベストコンディションは望めない」とのコメントも聞かれるなかで迎えた決勝。9選手のうち7選手が「勝てば初GⅠタイトル」という顔ぶれで、本命視されたのは昨年のグランプリ王者・古性。グランドスラム達成に向けて手が届いていないタイトル(※)を埋める絶好機となった。対抗の一角には今年の『日本選手権競輪(ダービー)』を制し、4年前には競輪祭でも優勝している吉田拓矢(茨城・107期)が挙げられた。
※獲得していないGⅠは「日本選手権競輪」と「競輪祭」
【緊張を解いた同期・吉田拓矢の一言】
阿部はそんな吉田と競輪学校(現日本競輪選手養成所)の同期で、この決勝ではラインを形成することに。緊張を感じる舞台のはずだが、決勝進出選手を紹介するイベントでは、会場に漂う特別な雰囲気を味わい、思わず「楽しくなってきた」と吉田に声をかける。吉田も「楽しみましょう」と応じると、頂点を知る男のこの何気ない一言が、不思議と阿部の心を落ち着かせた。
20時30分、「競輪発祥の地」小倉の競輪ファンが大勢詰めかけた小倉競輪場に号砲が響き渡ると、360度観客席に囲まれたバンクに大きな声援がこだました。
動きがあったのは残り2周半を過ぎたあたり。松井宏佑(神奈川・113期)が先頭へ並びかけるアクションに古性ら近畿勢も反応するなか、吉田は先頭まで出る判断に。「とにかく追走することだけ考えていた」という阿部も吉田の背中にぴったり張りつくと、打鐘を受けて後続が進出を開始しても、同期ラインは好位置をキープし続けた。
最後のバックストレッチを過ぎ、各選手が猛然とスパートをかけるなか、吉田のスパートを受けて絶好のタイミングで阿部も進出を開始。進路を巡って外に広がった選手たちを横目に、最小限のロスでインを回って2番手にするりと潜り込む。最後の直線で残された力を振り絞った阿部は、目前の荒井崇博(長崎・82期)をかわし、ゴール線を最初に駆け抜けた。
発走機での阿部拓真(左)と、同期の吉田拓矢(右) photo by Takahashi Manabuこの記事に関連する写真を見る
阿部(6番車・緑)は吉田(5番車・黄)の後ろにピタリとつく photo by Takahashi Manabuこの記事に関連する写真を見る
ゴール直後、右手でガッツポーズ photo by Takahashi Manabuこの記事に関連する写真を見る
2 / 3

