検索

【平成の名力士列伝:琴欧洲】ブルガリアから欧州初の大関に上り詰めた「角界のベッカム」 親方として実践する伝統と新風の融合

  • 十枝慶二●取材・文 text by Toeda Keiji

長身を生かした豪快な相撲と甘いマスクで人気を博した琴欧洲 photo by Jiji Press長身を生かした豪快な相撲と甘いマスクで人気を博した琴欧洲 photo by Jiji Press

連載・平成の名力士列伝29:琴欧洲

平成とともに訪れた空前の大相撲ブーム。新たな時代を感じさせる個性あふれる力士たちの勇姿は、連綿と時代をつなぎ、今もなお多くの人々の記憶に残っている。

そんな平成を代表する力士を振り返る連載。今回は、琴欧洲を紹介する。

連載・平成の名力士列伝リスト

【史上最速で欧州出身者初の大関に】

 2メートル超の長身で均整のとれた体に甘いマスク。ヨーロッパ出身初の大関に史上最速で昇進し、朝青龍らに対抗した琴欧洲は、穏やかで優しげな外見の一方で、心の奥底に強い思いを秘めた、熱い力士だった。

 レスリングのブルガリア代表だった父の指導を受け、17歳で欧州ジュニア王者に。国立体育大学で相撲と出会ってその魅力を知り、レスリングのかたわら取り組んで世界選手権重量級で3位入賞を果たす。そんな活躍が目に留まって誘いを受けて来日し、大学を中退して佐渡ケ嶽部屋に入門。平成14(2002)年11月、琴欧州(のち琴欧洲)の四股名で初土俵を踏んだ。202センチの史上最長身新弟子は、萩原(のち稀勢の里)や白鵬、安馬(のち日馬富士)らと競い合って十両、幕内、三役に駆け上がった。

 一躍、脚光を浴びたのは小結で迎えた平成17(2005)年7月場所8日目。無敵の王者として君臨し、破竹の勢いで勝ち進んでいた横綱・朝青龍の連勝を24で止めたのだ。右上手投げで横綱を頭からたたきつける豪快な相撲に、館内の興奮は最高潮に達し、座布団が乱舞した。のちに自ら、「神様である横綱に勝って、横綱も人間なんだと思った。本当にうれしかった」と振り返る一番で自信を深め、この場所、12勝3敗の好成績。朝青龍に1勝及ばず優勝は逃したものの、翌9月場所は新関脇に昇進。翌11月場所後に、史上最速の所要19場所、22歳でヨーロッパ出身初の大関に昇進した。

 イングランドの人気サッカー選手、デビッド・ベッカムに似た甘いマスクから、人呼んで「角界のベッカム」。相撲センスに優れ、右四つでの寄り、上手投げは威力十分。平成20(2008)年5月場所では、朝青龍、白鵬の両横綱を撃破して独走し、14勝1敗で悲願の初優勝を果たした。しかし翌7月場所は9勝6敗に終わって横綱昇進は逃し、その後はケガが重なって休場が増え、平成25(2013)年11月場所限りで47場所守った大関から陥落。再起を期したが果たせず、平成26(2014)年3月場所を最後に、土俵を去った。

1 / 2

著者プロフィール

  • 十枝慶二

    十枝慶二 (とえだ・けいじ)

    1966(昭和41)年生まれ、東京都出身。京都大学時代は相撲部に所属し、全国国公立大学対抗相撲大会個人戦で2連覇を果たす 。卒業後はベースボール・マガジン社に勤務し「月刊相撲」「月刊VANVAN相撲界」を編集。両誌の編集長も務め、約7年間勤務後に退社。教育関連企業での7年間の勤務を経て、フリーに。「月刊相撲」で、連載「相撲観戦がもっと楽しくなる 技の世界」、連載「アマ翔る!」(アマチュア相撲訪問記)などを執筆。著書に『だれかに話したくなる相撲のはなし』(海竜社)。

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る