大相撲34歳ベテラン髙安が戦い続ける理由「15歳から雑草魂でやってきた。だから学生出身のエリートには負けたなくない」 (2ページ目)

  • 飯塚さき●取材・文 text by Iizuka Saki

【公傷制度と学生出身者の台頭について】

――最近は、力士のケガの多さが心配されています。私自身は、お相撲さんの体を守ってあげてほしいと思う一方で、公傷制度の復活には反対というか、かなり慎重な議論が必要だと感じています。関取のご意見はいかがですか。

髙安 ケガに関しては、みんな同じ条件ですからね。私も、現状のままでいいと思いますよ。ケガを治す時間は少ないですが、番付が下がっても治ればまた上がりますから。公傷制度があったのは、いまより昔のお相撲さんのほうが、巡業も多くて大変だったからだと思います。公傷制度があると、みんな結局は自分の体が大事なので、土俵上でいいパフォーマンスするために、そこをうまく使う人も多くなる。そういう意味でも、いまのままでいい。もちろん、だからといって休んでばかりいたら協会がつぶれちゃいますから、大変は大変なんですけど、我々お相撲さんもそれでメシを食っていますからね。

――一方で、若い力が台頭してきている昨今の角界です。率直にどう感じていますか。

髙安 脅威ですね、本当に。現時点でこれだけ強いのに、彼らはこれからも伸びていくわけですからね。それに対抗しないといけないとなると、まだまだいまの状態ではできないですから、そういう恐怖心はあります。現状維持ではダメなので、このままじゃやられると思って、自分も頑張らなきゃいけません。若いお相撲さんの力は刺激になります。波にのまれたら引退ですから、少しでも抗っていきたいですね。

――尊富士関や大の里関といった、学生から入ってすぐに活躍する力士たちに対する思いは。

髙安 自分は15歳から(相撲界に)入って、雑草魂でやってきましたから、エリートと呼ばれる学生出身のお相撲さんには負けたくありません。それもひとつの奮起の材料です。もちろん誰にも負けたくないけど、昨日おととい入ってきてパッと上がったようなお相撲さんには一層負けたくない。それはみんな思っているんじゃないですか。

 もちろん、強いお相撲さんが上に上がるし、強くなれば角界を引っ張っていく。自分にも若手の時代がありました。そうやって相撲界は続いてきた。皆、力をつけて、段階を踏んで成長して強くなっていく。

 それが遅いか早いかの差はあると思うんですが、現在の大の里や尊富士の活躍の裏には、自分たちが不甲斐ないというのもあります。自分も含めて上が強ければ、彼らの優勝は阻止できたはずです。そういう意味で、責任を感じています。特に上位陣は全員、絶対感じています。これで、自分も含めて来場所は上位陣がより頑張ると思うので、また来場所は盛り上がると思いますよ。ファンの皆さんにとっては、そのあたりが注目ですね。

つづく

【Profile】髙安(たかやす)/1990年2月28日生まれ、茨城県土浦市出身。身長188cm、体重181kg。田子ノ浦部屋所属。本名・髙安晃。15歳で角界入りし初土俵は2005年春(3月)場所、新入幕は2011年名古屋(7月)場所。2017年5月場所後に自身最高位の大関に昇進した。2020年1月場所後に大関から陥落するも、粘り強い相撲で幕内で相撲を取り続け、現在は東前頭三枚目。妻は演歌歌手の杜このみさん。

著者プロフィール

  • 飯塚さき

    飯塚さき (いいづか・さき)

    1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)、Yahoo!ニュースなどで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』では構成・インタビューを担当。2024年1月3日、TBS『マツコの知らない世界 新春SP』に貴景勝らと出演し、ちゃんこをはじめとする絶品「相撲メシ」を紹介した。

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