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スポーツクライミング野中生萌「本当にもう奇跡だと思います」。ケガで東京五輪絶望的から銀メダル獲得までの舞台裏 (3ページ目)

  • 篠 幸彦●文 text by Shino Yukihiko
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 ただ、帰国後の隔離期間でもコーチやトレーナーをはじめ、本当にいろんな人が最大限のケアをしてくれました。それがあったから私もまた頑張らなければいけないと思うことができました」

 ここまでの実力をつけるために膨大な時間と労力をかけてきた野中。それは決して順風満帆な道のりではなかった。野中は銀メダルの獲得までの歩みをこう表現した。

「本当にもう、奇跡だと思います。専用のスピード壁がないところから始まって、(クラウドファンディングにより)皆さんからお金を集めて練習場所を作ることができました。あと私にできる恩返しは、東京五輪で結果を残すこと。もう悔いが残らないように毎日ひたすら頑張っていました。

 ただ、終わってみたらちょっと恐ろしいですよね。もちろん、すべてがつながるように頑張ってはいたんですけど、それがちゃんとすべてがつながってくれて本当に安堵しています」

 野中は常々『世界一強いクライマーになる』という目標を公言してきた選手だ。『東京五輪はそれを証明するのに絶好の舞台』とも話してきた。果たして、東京五輪でその目標に到達できたのだろうか。

「私が言う"強いクライマー"というのは、単純に登れる強さだけではないんです。アスリートとして、人間として、いろんなものを乗り越えることも含めた強さなんです。その上で結果を出せるかどうか。ここまでの道のりを通して、とくにこの2年間はすごく成長できたと思います。数々のケガをずっと乗り越えてきて、精神面で大きくステップアップできました。そういう意味では、東京五輪で自分の目標にまた一歩近づけたと思います」

 その精神的な強さというのは今大会で野中がもっとも証明することができた部分である。3種目の中で苦しい局面もありながら大きく崩れず、ギリギリで踏みとどまっての銀メダル獲得だった。

「そう思います。競技者として、と言うのか。やっぱり、かなり山あり、谷ありだったので、成長を実感できましたね」

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