スポーツクライミング野中生萌「本当にもう奇跡だと思います」。ケガで東京五輪絶望的から銀メダル獲得までの舞台裏

  • 篠 幸彦●文 text by Shino Yukihiko
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

パリ五輪では金メダルを目指す野中生萌パリ五輪では金メダルを目指す野中生萌
 日本が過去最多となる58個のメダルを獲得し、日本中を沸かせた東京五輪。お家芸である柔道やレスリング、野球のメダルだけでなく、スケートボードをはじめとした新種目の躍進も大いに話題となった。その新種目のスポーツクライミングで銀メダルを獲得した野中生萌も今大会で主役となった一人である。

 五輪閉幕から約2ヶ月半が経ち、銀メダリストとして多忙な日々もひと段落した今、野中はあの濃密な2日間を改めて振り返った。

「五輪直後はメダルを獲ったという実感が沸かなくて、ただ『終わったぁ』という思いだけでした。あれから2ヶ月が経って、改めてメダルが獲れて本当によかったと思います。やっぱりメダルがあるのと、ないのとではまったく違ったものになっていたはずです。努力した成果を出すことができて、またそれを多くの人に見てもらえて、本当にいい機会になりました」

 改めて決勝の各成績を見るとスピード3位、ボルダリング3位、リード5位、総合45ポイントで銀メダル獲得となった。そのなかで、特に野中の助けとなったのはスピードだった。今年5月のW杯ソルトレイクシティ大会で同種目日本人初の銅メダルを獲得。6月の国内大会では7.88秒と日本人女子初の7秒台を記録し、スピードを専門とする世界トップレベルの選手たちと渡り合えるほどの力をつけていた。五輪でのスピードの好成績が、銀メダル獲得の大きな要因となったと野中は感じている。

「ソルトレイクシティ大会で表彰台に乗れたことで自信がついて、一気に8秒台の壁を破って、練習から頻繁に7秒台のタイムが出せるようになりました。それがあって東京五輪の予選で自己ベストの7.55秒が出せて、流れに乗れるきっかけになりました。スピードは本当に大きかったと思います」

 予選のスピード1本目に7.74秒で自身が持つ日本記録を更新すると、2本目は7.55秒とさらに更新してみせた。初の五輪、その予選第1種目というプレッシャー下で2度の自己ベスト更新をしたあの瞬間は、どんな精神状態だったのだろうか。

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