髙梨沙羅のチームスタッフが語った「ソチでの異変」 (2ページ目)
チーム沙羅のトレーナーを務める牧野講平氏。
その証拠に、競技当日の1本目の試技で髙梨は、最長不倒距離を飛んでいる。だが、メダルには届かなかった。
ウィンド・ファクター(風の条件でもらえる得点)が1本目、2本目合わせて『+5』という出場選手中2番目に高い数字。つまり悪条件の中でのジャンプを余儀なくされたことが大きい。
「大会後、髙梨選手を除いたチーム沙羅のスタッフが集まってミーティングをしたのですが、そこで彼女のお父様が『あの風だったら、あのジャンプがベストだ。あとは運というか気象面の影響だよな』とおっしゃっていました。おそらく、我々に気を使って言って下さったと思うのですが、僕らスタッフからすればまだ彼女のために準備できたことはあったはずだし、今回の経験を次に生かさなければいけない。それが彼女の成長につながるのですから」
牧野氏が髙梨に会えたのは翌日だった。
「たぶん一晩中泣いて、涙も枯れて落ち着いたぐらいだったと思うんですけど、口には出さずとも悔しさは伝わってきました。選手はいつだって努力してベストを尽くします。勝たせてあげられなかったのは我々スタッフの責任です」
その日、チームの面々と合流するとみんなで昼食をとりにイタリアンの店に行ったが、髙梨の食はあまり進まないようだった。
牧野氏と同じく2週間前から帯同していたウイダートレーニングラボの管理栄養士である細野恵美氏は、憔悴(しょうすい)していた髙梨のある一言を聞いて驚いたという。
「彼女は食事に関してもストイックで、自分のパフォーマンスを高めるために何を食べるべきかなど、すごく探究心のある選手なんです。彼女は、私が作ったものをいつも『美味しい』と言って食べてくれるんです。でも、五輪直前は心も体も疲れた中で、味わうというよりも義務感で食べていた感じでした。そして試合の翌日、みんなで昼食をとりにイタリアンの店に行ったのですが、そこでもあまり食が進まなかったみたいで、結構残していました。なのに、数時間もしていないうちに、彼女が突然『ボルシチが食べたい』と言ったんです」
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