【月刊・白鵬】現在6連覇中。なぜ横綱は九州場所で強いのか (3ページ目)
秋巡業の話に戻りますが、巡業という機会を利用して、若手力士の状態をチェックしたり、彼らの力を引き上げたりするのも、横綱の仕事のひとつです。そのため、幕内力士の申し合い稽古で土俵に上がる際には、期待している力士をこちらから指名して稽古をつけたります。ところが今回、ある若手力士はケガなどを理由にして、申し合いでの指名を断ってきたのです。
自分の体を大切にすることは、確かに重要なことです。でも、稽古で土俵に上がっている以上、せめてその時間は相撲に集中して、稽古に励んでほしいと思います。できれば、積極的に向かってきてほしいくらいです。私はいくらでも胸を貸すつもりでいますから。
九州場所の前には、豊真将(東前頭4枚目)のいる錣山(しころやま)部屋をはじめ、大関の琴奨菊や琴欧洲らが所属する佐渡ヶ嶽部屋などに出稽古に行きました。佐渡ヶ嶽部屋では、両大関ともにとても元気で、特に地元・福岡県出身の琴奨菊の気合いは相当なものでした。実際、相撲を取ってみても、体がひと回り大きくなった感じさえしました。しかし、琴奨菊は2日目に右肩を負傷して休場。さらに翌3日目には、琴欧洲までもが左肩を痛めて休場してしまいました。今場所は最後まで一緒に盛り上げていきたかったのですが、残念です。
一方、秋場所で11勝を挙げて「次期大関候補」と言われる関脇の豪栄道は、今場所も元気な相撲を見せています。先場所では、私も豪栄道の厳しい攻めに屈してしまいましたが、今の彼はやる気に満ちあふれています。その気持ちはますます高まっているようで、場所前には充実した稽古をこなしているという噂を耳にしていました。そしてその評判どおり、豪栄道は初日から4戦全勝。このままいけば、我々の期待以上の結果を残しても不思議はありません。
唯一の不安は、綱取りを逃し続けている稀勢の里と同様、下位力士に取りこぼしてしまう点です。横綱、大関戦ではめっぽう強いのですが、明らかに自分よりも格下の相手にポロッと負けることがあるのです。稀勢の里もそうですが、豪栄道も実力の高さは申し分ありません。ちょっとした油断から星を取りこぼすような、悪いクセを解消することができれば、豪栄道はすぐに大関になれるでしょう。
豪栄道は、土俵上で表情を変えることがほとんどありません。務めて無表情を装っています。しかし闘志満々であることは、対戦する側には十分に伝わってきます。そういうハートの熱い力士の登場は大歓迎ですし、頼もしい限りです。今場所でのさらなる飛躍を期待したいですね。
著者プロフィール
白鵬 翔 (はくほう・しょう)
1985年3月11日生まれ。モンゴル・ウランバトール出身。本名:ムンフバト・ダヴァジャルガル。宮城野部屋所属。2001年3月場所の初土俵から順調に昇進し、2007年7月場所で横綱昇進を果たす。以来、安定した相撲で勝ち星を重ね、数々の記録も打ち立ててきた
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