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【レスリング】全日本選抜を制した吉田沙保里の「もうひとつの敵」 (3ページ目)

  • 布施鋼治●文 text by Fuse Koji
  • photo by AFLO

 風は明らかに、村田の方に吹いていた。そして迎えた決勝戦、村田は若い力で吉田を一気に呑み込もうとする。試合開始直後、持ち前のパワーでねじ伏せるようにして吉田を追い込み、一気に5ポイントを獲得したのだ。

 流れの中で吉田は、わずかにポイントを返すのがやっと。5-4と村田リードで迎えた第2ピリオドも、残り30秒を切るまではそのまま村田がリードしていた。

 逆転を狙う吉田は、得意のサイドにつくポジションからバックを狙う。その動きを読んだ村田は身体を回転させて難を逃れたかのように見えたが、その動きを見透かしたかのように、歴戦の女王はバックを取り返して2ポイントを得た。残り時間15秒というところから、女王は勝負をひっくり返したのだ。いったいどこに予備燃料が残っていたのか。その勝負強さには、脱帽するしかなかった。

 試合後、村田は目を真っ赤に腫らしながら会見に応じた。「悔しい。(吉田の)体力を奪ってやろうと思っていたけど、相手のフェイントに惑わされて、後半は自分が攻められている感じでした」

 一方の吉田は、今日は何があってもおかしくないことを覚悟してマットに上がったことを打ち明けた。「強化合宿でも(村田に)ポイントを取られることが多くなってきた。彼女は着実に少しずつ伸びてきていると思う。でも、最後に勝たないと意味がないので」

 吉田沙保里の次戦は、9月16日からハンガリーで行なわれる世界選手権となる。しかし必要とされるなら、9月8日に行なわれるIOC総会にも出向くつもりだ。もうひとつの戦いを制するために――。

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