【レスリング】全日本選抜を制した吉田沙保里の「もうひとつの敵」 (2ページ目)

  • 布施鋼治●文 text by Fuse Koji
  • photo by AFLO

 日本レスリング界の顔として、やるだけのことはやろう――。5月29日、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで行なわれたIOC理事会に日本レスリング協会の福田富和理事長と足を運び、3つの金メダルを持参して積極的にロビー活動に務めた。この理事会では、残る一枠を争う競技を絞り込む投票が行なわれたが、1回目の投票でレスリングは過半数を獲得する強さを見せた。

 しかし、ロビー活動をすることで、吉田は全日本選抜選手権に向けての調整に出遅れた。案の定、シードとして2回戦のマットに上がった吉田の出来は、本調子からはほど遠いものに見えた。自分の型にはめることでフォール勝ちを収めたものの、いつものスピードや身体の切れは感じられない。

 直前のルール変更も大きな影を落とした。試合時間は、2分3ピリオド制から3分2ピリオド制へ。ポイントは合算され、7ポイント差まで開くとテクニカルフォールが成立するようになった。大会後、吉田を指導する全日本女子レスリングヘッドコーチの栄和人監督は、吉田の逆転優勝がまだ信じられないという面持ちで本音を吐露(とろ)した。

「いろいろなことがありすぎて、しっかりとトレーニングできない状況が続き、どうしようと思っていた矢先にロシアに行くことになった。これでは、いくら吉田に集中力があったとしてもヤバいんじゃないかと不安になりました」

 続く準決勝、吉田は大学生の浜田千穂から先制ポイントを奪ったが、失点も許した。主審からアグレッシブではない点を指摘され、注意を受けた。フットワークも鈍い。最終的に8-2で勝ったとはいえ、本調子とはお世辞にもいえない出来だ。

 対照的に、もう一方のブロックから勝ち上がってきた村田は絶好調だった。昨年12月、吉田が不出場だった全日本選手権で優勝した時と比べ、腕や肩回りがさらにゴツくなっている。動きにも切れとパワーがあり、初戦(2回戦)も準決勝も難なく突破した。

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