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【レスリング】ファインダー越しに見た、伊調馨がすべてを解き放った瞬間 (3ページ目)

  • 佐野美樹●文 text&photo by Sano Miki

 表彰式までの間、カメラを持って待っていると、「(表彰式を)隣で見ていてもいいですか?」と、馨の練習パートナーを務める山名慧が涙で目を腫らしながらやってきた。ずっと馨をそばで支えてきた彼女に、「馨は緊張とかってあったのかな?」と聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「緊張を口に出してはいなかったんですけど、今思うと、ロンドンに入ってからはいつもより、なんだか明るかったです」

 それを聞いて、なんだか切なくなった。いつも通りの、あまりに危なげない戦いぶりだったが、馨も緊張していたのだ。もしかしたら北京五輪までは、その緊張を姉の千春に打ち明けていたのかもしれない。そうでなくても、汲んでもらっていたのかもしれない。でも、北京五輪からの約4年、ひとりで戦うことを決めて、山名にさえそれを見せないよう、心配させないよう、ずっと心にしまってきたのだろう。

 五輪3連覇達成から数日後、馨を撮影する機会があった。金メダルを持って、ニーッと笑う馨を撮りながら、私は思わず「馨はやっぱり笑顔が一番似合うね」と言った。今までの馨なら、「そうですかねぇ」と謙遜する答えが返ってくると思っていた。が、馨は「うん!」と思い切りの笑顔で答えた。

 ほんの数年間、ファインダー越しに撮り続けてきただけの、ただのカメラマンだけど、「やっと素直に笑えるようになったのかな」と思ってしまうほど、馨の笑顔は見違えた。計り知れないプレッシャーや不安を、この4年間はひとりでずっと抱えてきたのだろう。彼女はやっと、そこから解き放たれたのだ。

 そんな馨の姿を見て「良かったな」と思う反面、次のステージに上がった馨は、今度はどんな笑顔をするのだろうかと、楽しみになった。

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