2012.08.22

【レスリング】ファインダー越しに見た、伊調馨がすべてを解き放った瞬間

  • 佐野美樹●文 text&photo by Sano Miki

ロンドン五輪レスリング女子63kg級で3度目の金メダルを獲得した伊調馨。 五輪3連覇を決めるホイッスルが鳴ると、伊調馨は大きく手を叩いて天を仰ぎ、大きな声を上げて喜びを表現した。北京五輪以降、彼女が優勝を決めて、こんなに感情を露(あらわ)にする姿を私は撮ったことがなかった。

 姉の千春とともに、マットの上で戦った北京五輪。試合後、「千春が(レスリングを)やめるなら私も」と、まだ24歳ながら馨は「引退」の2文字を口にした。後にそれを撤回し、千春とともにリフレッシュを兼ねて約1年間カナダに留学。その後、復帰を果たしたのは周知のことだろう。

 幼い頃から姉妹ふたりでずっと走り続け、大舞台を終えて姉が引退を決意した時、馨の気持ちも一緒に切れてしまったことは、容易に想像できる。きっと、どんなにレスリングが好きでも、まだまだやれるのがわかっていても、その時、引退しようと思った気持ちは本当だったのだと思う。

 どの大会も、いつも近くには千春がいて、一緒に戦っていた。世界選手権やアジア大会の大会終了後、千春と一緒にメダルを持ってはしゃぐ姿を何度となく撮影してきた。個人競技のレスリングをいつもふたりで戦っていた。だから、千春の引退は馨にとっても、ひとつの”引退”だったのではないだろうか。

 そこから、ロンドンまでの道をひとりで走って行くことを決め、一度切れた気持ちをまたひとつにしていく作業は、相当大変だったに違いない。