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坂本花織の武器は爆速のスケーティング 全日本直前の逆境を乗り越えて積極的なトライが奏功

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【大会直前に胃腸炎でダウン】

 12月20日、大阪。フィギュアスケートの全日本選手権、女子シングルのショートプログラム(SP)では、4連覇を狙う坂本花織(24歳/シスメックス)が78.92点で首位に立った。トリプルアクセルを成功させ、台頭目覚ましい島田麻央を抑えた格好だ。

12月20日、全日本選手権SPで首位発進した坂本花織12月20日、全日本選手権SPで首位発進した坂本花織この記事に関連する写真を見る

「全日本では、勝つつもりで。誰かに勝つよりも、自分に勝つ。欲張りに、全部いい方向へつなげていきたいなって」

 坂本は言うが、その思考に至る伏線はあった。

「(3位だった)GPファイナルは、連覇を目標にしなかった結果で、それが悔しくて。やっぱり、強気で挑んだほうがいい成績は残せているんですよね。これは、いろんな大会を経験して気づけたところもあって。だからこそ、今回はファイナルから全日本に向けた期間で、強気で勝ちにいくって思い返せました」

 攻めの姿勢に転じた女王は、氷上で圧倒的な風格を漂わせているーー。

「山あり谷あり」

 坂本は、GPファイナルから日本に帰ってきた当時を振り返る。実は全日本への道のりは平坦ではなかった。

「帰国後、胃腸炎になって完全にダウンしてしまって。筋力とか落ちた状態で、ゼロからのリスタートでした。夜練で復帰したんですが、全然踏ん張れなくて、1週間後(の全日本は)大丈夫かなって。力が出なくて......今までのように滑っているはずなのに、人の顔がはっきり見えてしまうくらい遅くて」

 坂本はピンチだったはずだが、はしゃぐように振り返る。その明るさが彼女の強さだろう。そして、災いを転じて福となした。

「必要な体幹やハムストリングを重点的に鍛えることによって、筋肉が働き出したなっていう実感がつかめてきました。それで今週は、だいぶ調子も上がってきて。逆に疲れを残さずに挑むことができたので、今のコンディションはファイナル前よりいいです!」

 逆境でこそ、真の女王は底力を見せる。

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著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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