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坂本花織の武器は爆速のスケーティング 全日本直前の逆境を乗り越えて積極的なトライが奏功 (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【強気の姿勢でつかんだ答え】

「6分間練習が終わっても緊張感があって......いまだに肩に力が入ってしまう感じはします」

 坂本は言うが、少なくとも全日本のSP前の6分間練習では風格すら漂っていた。真っ赤な衣装で、手袋まで赤。そこに金髪がなびき、何やら彼女そのものが福音のようだった。

 そして、冒頭のジャンプは雄大なダブルアクセルを完璧に着氷している。次に高難度の3回転ルッツも難なく成功。そして、3回転フリップ+3回転トーループのコンビネーションでも高得点を叩き出した。

「ひとつのジャンルだけではなくて、どんな曲でも滑れるように」

 坂本は以前から語っている。その順応性こそ、彼女の才能なのかもしれない。プログラムを自分のものにして、作品にできるのだ。

 最高速度27.4kmのスピードが、スケーティングを支える。その爆速があるからこそ、緩急も出せる。プログラムコンポーネンツは、37.26点と他を寄せ付けなかった。

「ファイナルまでは3・3(3回転フリップ+3回転トーループ)が不安だったんです。決まる時はあるけど、失敗のイメージがあって......それが跳べるコツを1週間でつかめて、練習成果が出てよかったなって思います!」

 つまり、劣勢に追い込まれる中で、新たな境地を見出したわけだ。

「フリップのコツっていうのが......左回りのカーブでいくんですけど、これで中に入ってしまうと、左の腰が回りすぎてバランスが取れなくなってしまうんです。流れに乗りすぎてしまうよりも、むしろ(対角線上に)逆らったほうがいけるなって。ファイナルから帰ってきてから練習で、それを実践していたら確率が上がってきたんです」

 坂本はそう説明したが、フリップひとつをとっても、積極的なトライが功を奏した。強気の姿勢が導き出した「答え」と言える。成功に対するイメージの強さだ。

「私は、どの試合でも勝っていきたいという気持ちが人一倍強いので。ファイナルは3位になってしまって......優勝を目指して取り組んで、自分に勝っていこうっていう気持ちが大事なんだなとあらためてわかりました。だから、全日本は強気でいきたいなって」

 彼女はそう繰り返す。戦いの覚悟は決まっている。女王は貪欲だ。

「(スコアが)自己ベストに近づいてきているのはうれしいですね。ただ、まだ取りこぼしているので、伸びしろがあると思うとやりがいがあります!」

 12月22日、フリー。坂本は最終滑走で4連覇に挑む。

著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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