羽ばたいた「逆転の吉田陽菜」 シニア1年目でGPファイナル表彰台の伏線 (3ページ目)
【「逆転の吉田」の伏線】
逆転の伏線はあった。
今年8月、シーズン前哨戦となる「げんさんサマーカップ」でも、吉田はSPこそ6位と苦戦していたが、フリーはトリプルアクセルで巻き返しを見せ、1位に躍り出た。その結果、逆転優勝を飾っていた。あくまで調整段階とはいえ、世界女王の坂本を抑えての勲章だった。
そして今シーズンは、「逆転の吉田」が定番になっていた。チャレンジャーシリーズ・ロンバルディア杯もSPからフリーで順位アップ。GPシリーズ・スケートアメリカは9位から3位で総合4位だった。続くGPシリーズ・中国杯は、3位から1位で総合は優勝。そして出場権を得たGPファイナルでも、挽回する強さを見せたのである。
吉田は失敗してもへこたれず、トリプルアクセルを自分のものにしている。降り方を改善し、ジャンプの高さを出し、強く成功のイメージを持ち、自分だけの形をつくってきた。体幹の弱さを補うため、鍛錬も重ねてきたという。
「自分は挑戦する立場」
彼女はそう言っていたが、それは謙虚という弱気ではなく、意欲的で果敢なスケーティングだった。反転攻勢の精神が観客を引きつけ、大技の成功にも結びついた。スケートの神様に祝福されたというのか。
その結実のひとつが、GPファイナルだった。次の舞台は、12月20日に長野で開幕する全日本選手権だ。鶴の声は氷上に響き渡るか。
著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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