得意のジャンプ転倒で涙、体調不良の悔しさ、主役候補の気負い...全日本フィギュア女子で足跡を残した3人の「敗れざる者たち」 (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【シンデレラストーリーのさなか「弱さが出た」】

 そして渡辺倫果(20歳、法政大)は、今回の全日本で主役候補のひとりだった。

 渡辺は、昨シーズンの全日本から一気に台頭した。今シーズンは、ケガで欠場の樋口新葉の代替でGPシリーズ出場が決まると、スケートカナダでいきなり優勝し、NHK杯でも5位と健闘。

 GPファイナルに出場すると、颯爽と4位に躍進し、表彰台にあと一歩まで近づいた。まさにシンデレラストーリーだった。

12位の渡辺倫果12位の渡辺倫果この記事に関連する写真を見る「去年は東日本選手権の優勝者ではありましたが、五輪出場とかは関係なかったんで、8位以内が目標(結果は6位)でした。でも、今年は表彰台も視野に入れていて。違った立場、感覚で臨む全日本になりました。今シーズン前半で得た経験はすごくいいものだったと思うので。頑張って過去の自分を超えられるように」

 渡辺はそう言って、表彰台を狙っていた。トリプルアクセルは強力な武器だったし、挑戦者特有の勢いもあった。試合を重ねることで、右肩上がりに強くなっていた印象もある。

 ただ、全日本は挑戦者の勢いを飲み込む場でもある。

「悪い意味で、気負いすぎて。GPファイナルは出場しましたが、全日本はまた違いました」

 渡辺はそう振り返っている。SPは18位と出遅れた。

「前は力むくらいで跳んでいたんですが、最近は力を抜かないと跳べなくなって。6分間練習では、流して跳べていたんです。でも、今度は流して飛ぶことにとらわれてしまって。変な、いやな緊張というのがありました。調子よくできてしまっていただけに、その感覚に頼りすぎたというか」

 フリーに向け、「はい上がっていけばいい」と気持ちを入れ替え、冒頭でトリプルアクセルをどうにか成功させた。しかし、ジャンプの転倒やルッツの失敗などが響き、大きく巻き返すことはできなかった。フリーは9位にとどまり、総合12位だ。

「弱さが出ました。出ないように練習する必要があって。その意味では、自分には伸びしろしかないです」

 渡辺は断固として言った。今シーズン全体のパフォーマンスが評価された格好だろう。2023年2月には四大陸選手権、3月には埼玉で開催の世界選手権出場も決まっている。そこで彼女の真価が問われる。

「世界選手権は五輪以外では最高峰の戦いだと思うので、そこでどこまで通用するか、ベストの演技で、いけるところまでいってみたいです。ピークを持っていけるように頑張れたらなと」

 渡辺は虎視眈々だった。

 3人は敗れざる者として、次の戦いに挑む。勝負は糾(あざな)える縄の如し。次に勝てば、局面はひっくり返せる。スケート人生に敗れるまで、戦いは果てしなく続くのだ。

【著者プロフィール】
小宮良之 こみや・よしゆき 
スポーツライター。1972年、横浜生まれ。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。

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