髙橋大輔「やってしまった」村元哉中「大ちゃんに感謝」。かなだいが全日本フィギュアの痛恨のミスで見せた真価とぬくもり (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【演技後に見せたぬくもり】

 しかしながら失敗の風景にこそ、かなだいの真価は見えた。

 演技直後、怪人役から素に戻った髙橋は、人懐っこい表情で悔しがった。その姿に村元が、「よかったよ」と自分の胸をポンポンとたたいた。

 微笑ましいふたりの様子に、満員の観客が「大ちゃん、哉中ちゃんらしい」と共感するように笑みを漏らし、万雷の拍手を送った。のどかな熱気は「ぬくもりのある風景」を形づくっていた。

 FDでかなだいは、108.91点で堂々の1位。リズムダンス(RD)で首位に立っていただけに、トータル186.61点で全日本初優勝を成し遂げた。

「クリス(・リード)との優勝(※2015〜2017年3連覇)も素敵な思い出ですが」

 村元はそう前置きし、今回の初優勝を形容している。

「久しぶりの優勝というよりも、初めての優勝のようにフレッシュで。ゼロからのスタートだったし、その意味ではパートナーがいないと戻れないので、(髙橋)大ちゃんに感謝ですね。特別な日になりました」

 シングルで男子フィギュアスケートのパイオニアになった髙橋は、今も特別な日をつくり続ける。4年ぶりに復活し、アイスダンスに転向して3年目。36歳で再び全日本で頂点に立った。これはスポーツ界全体での快挙だ。

「最高のクリスマスイブ? 結果的には最高なんですけど、最後の失敗にとらわれているので。今日はやけ酒しようかなって(笑)。たぶん、今日は寝れないんで、うれしいけど悔しい。でも最後のリフトだけでなく、レベルをとれていないところとか課題はいっぱいあって。いつか完成形を見せたいなって思っています」

 最後の失敗さえも、次の物語の序章になった。それが、かなだいの魅力だろう。2023年3月、世界選手権への出場は確定的だ。

【著者プロフィール】
小宮良之 こみや・よしゆき 
スポーツライター。1972年、横浜生まれ。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る