「氷上の妖精」三原舞依が真価を見せるとき。「一番うれしい」GPシリーズ初優勝からファイナル初出場をかけた戦いへ (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Getty Images

人生の苦しさや喜びを観客の心に伝える

 2022−2023シーズン、三原は上々の滑り出しを見せている。8月、シーズン前哨戦のげんさんサマーカップで優勝。10月には、近畿選手権も順調に制覇している。

 そして同月、京都。西日本選手権のSP、三原は自然体だった。

 リンクサイドで大会開幕のファンファーレが鳴って、小さくジャンプする。中野コーチと短く言葉を交わし、小さく笑みをこぼす。6分間練習、ジャンプを丹念に確かめるのだが、その段階でほぼミスがない。滑るたびに精度や強度を上げ、ミリ単位、コンマ単位で調整。氷との対話で、集中力を高める。充実したトレーニングを積む日々が透けて見えた。

 その日、三原は国際スケート連盟(ISU)非公認ながらもSPで自己ベストを出している。『戦場のメリークリスマス』の哀切を氷上に表現。3回転ルッツ+3回転トーループからスピンの間で曲調がやや激しくなるのだが、スケーティングで胸に迫るような激情を伝えた。

「(『戦場のメリークリスマス』の)物語は儚いイメージなので。優しく、力強く、と思って滑っています」

 SP後、三原はそう語っていた。

「私の好きな曲のリストがあるんですが、『戦場のメリークリスマス』はそのひとつで、(振付師のデヴィッド・ウィルソン氏に)『これを滑ってほしい』と言われて、すごくうれしかったです。最初から最後まで好きな曲で、いろいろな情感がこもっていて。その曲に乗り、人生の苦しさだったり、つらさだったり、喜びだったり、全部包み込んで、見ている方々の心に響く演技ができたら、と思っています」

 彼女は単なる競技者の枠を出て、表現者の領域に入っている。

 ただ、フリーは苦戦した。大きなミスはなかったが、後半のジャンプで回転不足を取られ、ステップもレベルを落とした。その結果、逆転で優勝を逃している。

「すごく悔しい。(この気持ちを)しっかりGPシリーズにぶつけたいです」

 彼女は自らを叱咤するように語ったが、そこまで真摯に自らと対峙できるのが異能だろう。挽回すべく、真っ直ぐ練習に打ち込む。

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