2021.07.05

羽生結弦は学び続ける。アクシデントを乗り越え完全優勝できた要因

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

『羽生結弦は未来を創る〜絶対王者との対話』
第Ⅵ部 類まれなメンタル(2)

数々の快挙を達成し、男子フィギュアスケートを牽引する羽生結弦。常に挑戦を続ける桁外れの精神力と自らの理想を果敢に追い求める情熱を持つアスリートの進化の歩みを振り返る。世界の好敵手との歴史に残る戦いや王者が切り拓いていく未来を、長年密着取材を続けるベテランジャーナリストが探っていく。

2014年GPファイナルのフリー演技の羽生結弦2014年GPファイナルのフリー演技の羽生結弦 この記事に関連する写真を見る  ソチ五輪を制し五輪王者として臨んだ14−15シーズン、羽生結弦を待ち構えていたのは予想外のアクシデントだった。羽生にとってGPシーズン初戦となった中国杯の男子フリー直前練習でハン・ヤン(中国)と激突し、頭部挫創など全治2、3週間のケガを負った。ただし、アメリカチームのドクターから、「脳震盪(のうしんとう)は起こしていない」と診断を受けたため、羽生は出場を決断したのだった。

 傍目から見れば不可能とも思える決断だったが、羽生自身には「ここで棄権をすれば自分のシーズンが終わってしまう」という思いがあった。過去にひどいねんざを負いながらも強行出場して結果を出した経験もあっただけに、脳震盪を起こしていないなら、その後の影響も小さいと判断した。

 治療により5日間のみの練習で臨んだその3週間後のNHK杯は、「グランプリ(GP)ファイナルへ行きたい」という強い気持ちが力みにつながり、試合に集中できない苦しい戦いに。一度は諦めかけていたが、結果は4位ながら上位選手も崩れ、同じポイントで並んだジェレミー・アボット(アメリカ)を、2試合の合計得点で0.15点上回り、GPファイナル出場へ滑り込んだ。