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「心が折れなかった」本田真凜のリスタート。「今は、スケートしかない」 (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 しかし天才と呼ばれた少女は、苦しんだことによって、スケートと対峙することができたのだろう。

 今年夏のインタビューだった。

―あなたにとって、スケーターの覚悟とは?

 そう質問を投げたことがあった。

「自分は小さい時から、ジュニアくらいまでは何も考えず、ただただ競技をしていました。(平昌)オリンピック選考会があって、一度スケートから離れたいと思ったこともあって。初めて、4、5日くらい(練習を)休みました。もうちょっと休む予定だったんですけど、練習に向かっている自分がいて。"今の自分にはスケートしかない"ってそのとき感じたので。そこからは、つらいな、と思うことはあっても、やめよう、という気持ちにはならなくなりました。今は、スケートしかない、っていうのが大きいです」

 彼女はこの2年で辛酸をなめながら、変わり始めていたのだろう。

 今回の全日本のフリー、冒頭でジャンプをミスしたものの、本田は怯まず、貪欲だった。単独の予定だった3回転ループに、2回転トーループをつけた。さらに、最後に予定していた3回転サルコウを、より得点の高いフリップに変更。フリップは着氷が少し乱れたが、目を瞠るべき勇気と臨機応変さだった。

「ショートが終わって日本のトップの6人に入っていることは、昨シーズンは考えられませんでした。フリーも揃えられたらよかったですけど。昨シーズンまでなら、最初のジャンプのミスで心が折れてしまっていたと思います。いつもなら引きずるパターンでしたが。"ジャンプの失敗も含めてひとつの作品"と思えるようになりました。あきらめず、楽しんでいることを表現したいって」

 本田は、自分の中での手応えを覚えていた。

「シーズンオフに、アイスショーでたくさん滑らせてもらったのはよかったな、と思っています。気持ちが折れかけていたところで、"また頑張ろう"と思えました。私は気持ちがいちばん大変なところなので、今回で"大丈夫"と思えたことで、これからは技術のところでも頑張ろうって思っています」

 苦悩する時間は、新たな本田真凜を見せるために必要な時間だった。

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