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井上尚弥は現代のボクシングビジネスに一石を投じた 2026年はどのような立ち位置になるのか? (2ページ目)

  • 杉浦大介●取材・文 text by Daisuke Sugiura

【PFPトップ10では2025年最多の4試合の意味】

 もっとも、「Fighter of the Year」選考で"次点"になったとしても、井上がやり遂げたことの価値が変わるわけではない。アメリカのリング界には"Activity matters(活動的であることは重要だ)"という言葉がある。近年のトップボクサーは年2試合かそれ以下が当然になったなかで、去年の"モンスター"井上尚弥は1、5、9、12月とコンスタントにリングに立ち続けた。キム・イェジュン(韓国)、ラモン・カルデナス(アメリカ)、アラン・ピカソ(メキシコ)といった対戦者たちは世界的には無名の存在ではあっても、キム以外のふたりは一定の実力者だった。このレベルの選手が年4戦をこなすことの珍しさは、『リングマガジン』のPFPでトップ10にランクされている選手たちの2025年の試合数を見れば明白だ。

 1位 オレクサンデル・ウシク(ヘビー級) 1試合
 2位 井上尚弥(スーパーバンタム級) 4試合
 3位 ジェシー・ロドリゲス(スーパーフライ級) 2試合
 4位 ドミトリー・ビボル(ライトヘビー級) 1試合
 5位 アルツール・ベテルビエフ(ライトヘビー級) 1試合
 6位 中谷潤人(バンタム級) 3試合
 7位 シャクール・スティーブンソン(ライト級) 2試合
 8位 デビッド・ベナビデス(ライトヘビー級) 2試合
 9位 デビン・ヘイニー(ウェルター級) 2試合
 10位 オスカル・コヤソ(ミニマム級) 2試合

  このように頻繁にリングに立つことの負担について、昨年11月のインタビューで問うと、井上はすっきりした表情でこう述べていた。

「常に戦う体勢ができているので、居心地がいいんです。いつでも戦闘モードでいられる感じ。ただ、僕は試合するだけなのでいいですけど、1年4戦だと大橋秀行会長や(大橋ジムの)スタッフの方々の仕事が本当に大変になるので、そっちを心配しています(笑)」

 2025年は日本で2戦、ラスベガスで1戦、サウジアラビアで1戦。今では"モンスター"の試合はすべてがビッグイベントとなり、それは試合地がどこであっても変わらない。トレーニング期間、プロモーションの時間、労力なども含め、選手本人、その陣営ともに実際にはかなりの負担だろう。だからこそ、世界最高レベルのボクサーが同時に現役最高級の"戦うチャンピオン"でもあることには大きな意味がある。

 アメリカではSNSでのトラッシュトークには熱心でも、なかなかリングに上がらない若手選手が数多い。端的に言って、近年のアメリカ・リング界の人気凋落は、トップ選手たちがなかなか試合をしなくなったことが一因と言える。そんな時代において、多くの時間をボクシングに捧げた井上は一服の清涼剤だった。本人にそういった意図はなくとも、現代のボクシングビジネスに一石を投じたという考え方もできる。

 年間最優秀選手に選ばれようと、そうではなかろうと、井上の2025年には大きな意味があった。軽量級選手としてはもう必ずしも若くはない31〜32歳という年齢でありながら、そのような1年を過ごしたことも評価されていい。そのうえ、さらにすばらしいのは、2026年は"モンスター"にとって、もっと大きな1年になるかもしれないということだ。

 年間最優秀選手の受賞とPFP1位復帰をどちらも成し遂げる現実的な可能性が見えてきているのである。

つづく

著者プロフィール

  • 杉浦大介

    杉浦大介 (すぎうら・だいすけ)

    すぎうら・だいすけ 東京都生まれ。高校球児からアマチュアボクサーを経て大学卒業と同時に渡米。ニューヨークでフリーライターになる。現在はNBA、MLB、NFL、ボクシングなどを中心に精力的に取材活動を行なう

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