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【ボクシング】在米専門記者が解説する井上尚弥のリヤドシーズン(ピカソ戦)の意義 中谷潤人戦への展望は? (2ページ目)

  • 杉浦大介●取材・文 text by Sugiura Daisuke

【ピカソ戦は6ラウンド以上続くとは思わない】

 井上対ピカソ戦を具体的に展望すると、やはり挑戦者に大きなチャンスがあるとは考え難い。ピカソはまだ25歳と若く、経験も十分とは言えない。戦績のなかで最も評価できる星は昨年8月のアザト・ホバニシャン(アルメニア)戦での判定勝利くらいだが、ホバニシャンは一時期、井上のスパーリングパートナーだった選手だ。ピカソにはキャリアを代表する大きな勝利がない。亀田京之介と戦って2-0の判定勝ちを収めた今年7月の前戦も内容はいいとは言えなかった。

 興味深い点を挙げれば、井上は昨年5月のルイス・ネリ戦、今年5月のラモン・カルデナス戦において、1、2ラウンドという早い段階でダウンを奪われていることだ。開始直後から時間を与えず、リズムに乗らせなければ、何らかの波乱の余地はあるのかもしれない。

とにかく最初から激しい戦いに持ち込むこと。ピカソが試合を面白くするには、そこをつく以外にない。ただ、問題は、ピカソが32勝中KOは17に過ぎず、決してパワーパンチャーとは言えないことだ。

 井上側に懸念材料があるとすれば、サウジアラビアという開催地くらいだ。東京とサウジアラビアの6時間の時差がどれほど影響するのかはわからないが、少なくとも日本と勝手が違うのは確かだろう。日本の会場のような1万5000人の大声援は、そこには存在しない。過去のサウジ興行を思い返しても、比較的落ち着いた雰囲気になる可能性がある。ウィリアム・スカル戦でのサウル・"カネロ"・アルバレスはその環境が影響し、精彩のない判定勝ちに終わったが、井上も気持ちを高めるのは多少難しくなる。

 それでも最終的には、井上はプレデター(捕食者)だ。目の前にピカソがいれば、いずれ仕留める。試合が3ラウンドを過ぎれば、予想どおりに一方的な展開になると思う。4、5ラウンドで終わらなかったとしても、井上は6ラウンドにはリズムをつかんで倒すだろう。6ラウンド以上続くとは思えない。いずれにせよ、またしても印象的なKO勝利で終わると思っている。

 正直、ピカソには早すぎる挑戦だと思う。挑戦する資格があるかどうかはわからないが、先ほども述べたとおり、井上にはもう相手がいない。だからこそ、井上の強さを改めて示す機会になると見ている。

 今回の興行の真のストーリーは、井上と中谷が同じ日に、メインとセミで戦うこと。そして5月の直接対決計画がすでに進んでいることだ。両者がそれぞれ見栄えのいい勝ち方をしてくれるだろう。試合後にリング中央でフェイスオフし、メガファイトの日程を発表してくれることを願っているボクシングファンは私だけではないはずだ。

著者プロフィール

  • 杉浦大介

    杉浦大介 (すぎうら・だいすけ)

    すぎうら・だいすけ 東京都生まれ。高校球児からアマチュアボクサーを経て大学卒業と同時に渡米。ニューヨークでフリーライターになる。現在はNBA、MLB、NFL、ボクシングなどを中心に精力的に取材活動を行なう

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