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山中慎介が中谷潤人を「難攻不落」と絶賛 防衛戦でダウンを奪ったシーンも「普通の選手にはできません」 (3ページ目)

  • 篠﨑貴浩●取材・文 text by Shinozaki Takahiro

【中谷のパンチの多彩さは「相手はたまったもんじゃない」】

――中谷選手は試合中、前の手(右手)を突き出して、グローブの内側を相手側に向けた構える時があります。どんな狙いがあるのでしょうか?

「あの構えをすると、相手は本当にやりづらいと思いますよ。前の手でブロックされて止められる感じがするのと、リーチもあるので中に入れなくなります。さらに、スタンスを広くて顔が遠いところにあるので、相手は『パンチが届かない』という感覚になるはずです」

――そうなると、距離を詰めるしかなくなりますね。

「今回のクエジャルがまさにそうでしたね。クエジャルほどの体格がいい選手ですら遠い距離で戦うことをあきらめるわけですから、いかに中谷選手がロングとミドルレンジを支配しているかがわかります。かといって、中谷はショートも強い、まさに"難攻不落"です」

――中谷選手は試合後、序盤で右の鼓膜が破れたと話していました。山中さんは現役時代、同じようなことを経験したことがありますか?

「あります。岩佐(亮佑)との試合の7ラウンドあたりでした。鼓膜が破れたのは初めての経験でしたが、音の聞こえ方に違和感があったくらいで、試合中は気にしている暇もなかったですね。試合への大きな影響はなかったと記憶しています。おそらく言わないだけで、鼓膜が破れた経験のある選手はけっこういると思います」

(※)2011年3月5日、山中が岩佐を10ラウンドTKOで下し、日本王座の初防衛に成功した。

――中谷選手のパンチの軌道は、ストレートでもフックでもアッパーでもない、独特な軌道に見えます。近距離でガードの隙間にねじ込むようなパンチなどは、ゲンナジー・ゴロフキン(元ミドル級王者)の打ち方とも重なります。

「本当にいろんな角度から打てますよね。それでいて、ピンポイントで正確に当てられるし、破壊力もある。長い腕をうまく畳んで、ゴロフキンのような打ち下ろしや、下から縦に入れるアッパー、スマッシュ(アッパーとフックの中間で斜めに突き上げるパンチ)も混ぜています。もちろん、通常のフックやアッパーも打てるし、それらをテンポよく組み合わせていますね」

――テンポのよさも強みのひとつですね。

「間違いないです。普通、強いパンチを打つ時は、『距離を設定して、タイミングを見て......』と、どうしてもワンテンポ空くものなんです。中谷にはそれがない。どの距離でも、迷いなくスムーズにパンチを繰り出せます。しかも、上、下、中、外と散らしながら強いパンチが飛んできますから、相手はたまったもんじゃないですよ(笑)」

(中編:中谷潤人は井上尚弥と戦う前に統一戦へ 山中慎介が他のバンタム級日本人王者のなかで「一番の強敵」に挙げたのは?>>)

【プロフィール】

■山中慎介(やまなか・しんすけ)

1982年滋賀県生まれ。元WBC世界バンタム級チャンピオンの辰吉丈一郎氏が巻いていたベルトに憧れ、南京都高校(現・京都廣学館高校)でボクシングを始める。専修大学卒業後、2006年プロデビュー。2010年第65代日本バンタム級、2011年第29代WBC世界バンタム級の王座を獲得。「神の左」と称されるフィニッシュブローの左ストレートを武器に、日本歴代2位の12度の防衛を果たし、2018年に引退。現在、ボクシング解説者、アスリートタレントとして各種メディアで活躍。プロ戦績:31戦27勝(19KO)2敗2分。

著者プロフィール

  • 篠﨑貴浩

    篠﨑貴浩 (しのざき・たかひろ)

    フリーライター。栃木県出身。大学卒業後、放送作家としてテレビ・ラジオの制作に携わる。『山本"KID"徳郁 HEART HIT RADIO』(ニッポン放送)『FIGHTING RADIO RIZIN!!』(NACK5)ウェブでは格闘技を中心に執筆中。レフェリーライセンス取得。ボクシング世界王者のYouTube制作も。

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