禁断の「全女式押さえ込みルール」で露わになった宝山愛の感情 長与千種は「ガチという言葉は薄っぺらい」 (3ページ目)
【勝利した暁が「あんまりうれしくなかった」とポストした理由】
プロレスは、観客に対して"魅せる"スポーツである。プロレスラーは試合をしながら、常に観客に見られていることを意識する。しかしこの日、宝山は観客の目を一切意識しなかったという。目の前の暁を倒すことだけを考え、感情が爆発した。「こんなに感情が出たのは初めてかもしれない」と話す。「それは押さえ込みルールだったからですか?」と聞くと、「わからない」と答えた。
「千華との押さえ込みルールでの試合が決まった時から、『頑張ってね』『応援してるよ』と言ってくださるお客さんが本当にたくさんいらっしゃった。それに応えることができなかった自分に対して、情けなさと、悔しさと、『本当にごめんなさい』という気持ちでいっぱいでした」
無気力になった。誰にも会いたくなかった。情けない自分の姿を、人に見られるのが嫌だった。道場に帰ってから、彩羽匠と1対1で話をした。彩羽に「今日は落ち込んでいいけど、明日は元気になりなさい」と言われ、「今日、あと半日だけは落ち込ませてください」と言った。そのとおりに部屋に籠もり、ありったけの涙を流し、翌日には立ち直った。
「プロレスが嫌いになりそうになりました。千華のことも嫌いになりそうになった。しばらく千華の名前を見るのもつらかった。でも、頑張ればお客さんはきっと喜んでくれると思うし、いつかベルトを獲りたいと思っているので。それに向かって、どれだけ頑張れるか。今、本当にチャレンジの時なのかなと思っています」
今までは感情をうまく出すことができなかった。どうしてもここぞという場面でブレーキがかかり、表情に出せない。しかし1月12日の試合で感情を爆発させたことで、観客の心を動かせたという手応えがある。これからもっと感情を剝き出しにして、もっと観客の心を掴みたいと考えている。
勝利した暁は、試合後、Xでこんなポストをしている。「あんまりうれしくなかった。勝つってなんだろう」――。なぜ暁は勝ったのにうれしくなかったのか。長与はこう分析する。
「押さえ込みの練習で千華は何回も勝っているので、勝てると思っていたと思うんですよ。でも、宝山のあの泣き方を目の前で見た時に、『さあ、あなたはどんな感情になりますか?』ということです。勉強しなさい、と。"赤を継ぐ"というのはそういうことです」
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