井上尚弥がスポンサー契約を結んだ、サウジアラビアの「リヤド・シーズン」への期待と懸念 (3ページ目)
『Yahooスポーツ』のキース・アイデック記者は、「ボクシングファンの懐事情を考え、PPVの値段を安価にしたのも見逃せない功績だ」とも述べている。
近年のアメリカのボクシングPPVは75〜90ドル(約1万1500円~1万4000円)と高価なのが当たり前だったが、リヤド・シーズンのカードは40ドル(約6000円)程度。このくらいの値段なら手が出る、というファンは少なくないだろう。結果的に、強豪対決をより安価でファンに提供していることは評価されてしかるべきだ。
【サウジのボクシング参入による懸念】
ただ、すべてを手放しで喜ぶべきではない、という意見も無視できない。アブラモビッツ記者からは「若手スター発掘、育成の術を探っていかなければならない」という言葉があったが、現状、サウジが興味を持っているのは最高級のトップボクサーだけ。一部のエリート選手のみが得をするようなシステムでは次期スターを育てるのは難しく、タレントのレベルはいずれ枯渇する。
次のスターを生み出すため、アメリカのマーケットも同様に潤う必要があるのだろう。そう考えると、ラスベガスをはじめ、アメリカの伝統的なマーケットでの興行が破滅的なのは歓迎すべきことではない。今の状態が続いた場合、業界はさらに先細りになるのではないか、という懸念は常にある。
サウジ側の目的は当面のビジネスではなく、平たく言えば"将来を見据えて国のイメージを変えること"。国営事業なのだとすれば、PPV売り上げの良し悪しなどで興行の実施が左右されることはない。だが、このままボクシングへの潤沢な投資が続くという保証があるわけでもない。
無尽蔵に思えるビッグマネーの出資で各カードの単価が上がり、いずれ何らかの理由でその資金供給が止まった場合、そこで業界全体が受けるダメージは計り知れないものがあるのだろう。そういった意味で、リヤド・シーズンの行方をもうしばらく慎重に見守る必要がある。
ボクシングへの参入はいつまで続き、最終的な目的地はどこなのか。今後、シリーズが進む過程で、新たにアンバサダーになった井上の役割、サウジ側から期待されているものも徐々に見えてくるはずだ。
著者プロフィール
杉浦大介 (すぎうら・だいすけ)
すぎうら・だいすけ 東京都生まれ。高校球児からアマチュアボクサーを経て大学卒業と同時に渡米。ニューヨークでフリーライターになる。現在はNBA、MLB、NFL、ボクシングなどを中心に精力的に取材活動を行なう
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