アントニオ猪木を全日本の試合会場に誘った柴田惣一 ジャイアント馬場がひとり、張り詰めた緊張感のなかリング上で待っていた (4ページ目)

  • 大楽聡詞●取材・文 text by Dairaku Satoshi

【「維新軍」「四天王プロレス」といったワード誕生秘話】

――プロレス界では、独自の言葉が使われることが多いですね。

「長州さんやアニマルさんたちの軍団を『維新軍』と呼びますよね? 明治維新の胎動の地である山口県萩市で新日本プロレスの興行が行なわれた際に、東スポの記事で『維新軍』という言葉を使ったのがきっかけになったんです。」

――そうだったんですか!

「全日本の『四天王プロレス』もそうだったと思います。1993年5月20、21日の、札幌中島体育センターでの2連戦。初日のセミファイナルが三沢光晴&小橋建太vs元世界タッグ王者のスタン・ハンセン&ダニー・スパイビーで、小橋さんがスパイビーをフォール。続くメインイベントでは、世界タッグ王者のテリー・ゴディ&スティーブ・ウイリアムスの"殺人魚雷コンビ"に川田利明&田上明が挑み、コンビを結成したばかりの川田&田上組が世界タッグ王座を奪取しました。

 そして2日目は、4大シングルマッチが行なわれた。田上vsスパイビー、小橋vsゴディ、川田vsウイリアムス、そして三冠ヘビー級王者・三沢vs挑戦者・ハンセン。結果は、田上、小橋、川田、三沢が勝利しました。 それで「全日四天王の誕生、誰にも文句は言わせない」という記事を載せて、見出しにもなりました。

それを見た日本テレビの若林健治アナウンサーが、実況に「四天王」を入れ込んだんです。すっかり忘れていましたけど、元『週刊プロレス』の全日本プロレス担当だった市瀬英俊さんが、著書『夜の虹を架ける』でそれを書いてくれて思い出しました」

――維新軍に四天王プロレス。プロレスファンの心に焼きついているキラーワードですが、それ以外もありますか?

「鈴木みのるのニックネーム『世界一性格の悪い男』ですね。僕がデスクだった時に、ある記者が『日本一性格の悪い男』というワードで記事をあげてきたんです。それで僕は、『日本一はまだまだだな。世界一にするぞ』と(笑)。

 レスラーのキャッチコピーやニックネームは、意識して作る時と、何も考えずに喋っているうちに出てくる時があります。どちらにしても、選手が気に入ってくれたり、プロレスファンの間で定着したりすると嬉しいです。

 選手たちはオリジナリティーを大切にします。先ほど、猪木さんの卍固め誕生の話が出ましたが、自分だけの必殺技も大切にする。今は同じ技でも、使い手によって呼び名が違いますね。必殺技の名前を強調するのはいいんですけど、技の形や、どこを攻め立てているのかが想像しにくい技名もあります」

――確かに、技の名前を覚えるのも工夫がいりますね。

「実況する側は他の団体のマット事情、必殺技のこともチェックしなくてはいけない。選手の数も桁違いに多くなったし、多団体時代の到来でファンたちも追いかけるのが大変。もちろん、取材するほうも心してかからないといけませんね」

(連載3:猪木のひと言で柴田惣一は「千のネクタイを持つ男」に 棚橋弘至との縁も>>)

【プロフィール】
柴田惣一(しばた・そういち)

1958年、愛知県岡崎市出身。学習院大学法学部卒業後、1982年に東京スポーツ新聞社に入社。以降プロレス取材に携わり、第二運動部長、東スポWEB編集長などを歴任。2015年に退社後は、ウェブサイト『プロレスTIME』『プロレスTODAY』の編集長に就任。現在はプロレス解説者として『夕刊フジ』などで連載中。テレビ朝日『ワールドプロレスリング』で四半世紀を超えて解説を務める。ネクタイ評論家としても知られる。カツラ疑惑があり、自ら「大人のファンタジー」として話題を振りまいている。

【写真】ケンコバのプロレス連載 試合フォトギャラリー

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