うつ病から復帰した高橋奈七永が受ける誹謗中傷。それでも「今の女子プロレスはヌルい」と声を上げ続ける理由 (3ページ目)

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko

 今は病気はほぼ寛解(かんかい)し、減薬している段階だ。昨年末、うつ病を公表すると、「言ってくれて嬉しかった」というメッセージがたくさん届いた。人知れず悩んでいる人がこんなにもいるのだと驚き、以来、TwitterのリプライやDMで相談も受け付けている。

「自分も人に言えずにずっとつらかったんですよね。元気なふりをして、嘘をつきながらプロレスをやっているような気がしてつらかった。自分のこともわからないし、何が本当なのかよくわからない気持ちになりました」

【関わらなければ、勝つことも負けることもない】

 2015年に第一段階の手術をした「左変形性足関節症」。その手術はプロレス界では症例がなく、他競技でプロとして復帰した選手もひとりだけ。術後も日常で歩くのも痛い状態が続いたが、それでもプロレスを続けていた。しかし精神的にも限界で「休みたい」という気持ちもあり、2020年2月に「左足首結合手術」をすることを決意。足首の関節を取って骨をくっつけることで、可動域がなくなる大きな手術だ。

 手術前、プロレスをやめる覚悟をして、やりたいことは全部やろうと決めた。2019年11月2日、カルッツかわさき大会にて中島安里紗と髪切りマッチを行なう。高橋が負けて坊主になったが、相手が中島安里紗だったから「これが最後でもいい」と思えるくらい思いきり闘えた。そして2020年2月、手術をして長期欠場に入る。

「手術をしたあとも『やりたいな』という気持ちに全然ならなくて。やめるならちゃんと引退してやめたいと思って、リハビリやトレーニングをしたら調子がよくなってきたので『リングに上がれるな』と。引退するために復帰した部分は少なからずありました」

 2020年12月、復帰戦でSareeeと世志琥の持つタッグタイトルに水波綾と組んで挑戦。30分時間切れ手前で負けてしまうが、ケガの痛みがないプロレスは楽しかった。「思いきり闘えるって幸せだな」と思った。

 2021年10月には左足首のボルト除去、ならびに右ヒザの手術のため2カ月の欠場。精神的な落ち込みが改善されることはなく、限界だったが、引退という決断はしなかった。うつ病の時に大きな決断をして、後悔したくなかったからだ。ある人から「背中に背負ってる荷物を降ろした時に、もっと飛べるんじゃないか」と助言され、「死んでるように生きてるのなら、前に進まなきゃだめだ」とやっと思えた。

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