全日本の控室からブロディ、スヌーカ・・・「あっ! ハンセンだ!」。サプライズ登場の瞬間、実況の倉持隆夫アナは嘘をついた (2ページ目)

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji
  • photo by 東京スポーツ/アフロ

「知っていて嘘をつく」

 ここまで伝えた時に、画面には花道を入場するハンセンが映し出された。瞬間、倉持は絶叫した。

「あっ! スタン・ハンセンだ! スタン・ハンセンがセコンドですね」

 解説を務めた東京スポーツの山田隆も「ハンセンですよ!」と声を上ずらせた。さらに倉持はこう続ける。

「スタン・ハンセンがセコンド。これは大ハプニングが起こりました、蔵前国技館!」

 ハンセン登場に倉持と山田は興奮していた。あれから41年を経て倉持は、この「あっ! スタン・ハンセンだ」の実況を、プロレスアナウンサー時代で「最高のフレーズでした」と振り返った。

「『知っていて嘘をつく』ということがあるんですが、この時のハンセン乱入もそうです。モニターを見ていて、控室から出てくる男が見えた時に、私はすぐに『スタン・ハンセンだ』とわかりました。ですが、彼はその直前まで、新日本プロレスのテレビ朝日に出ていたわけです。だから『全日本の選手じゃないから、ハンセンって言っちゃまずいんじゃないか』と思って『ウエスタンハットをかぶった大男』と、デタラメなことをしゃべったんですよ。

 その後、正面に姿が映りましたから、これは言うしかないと思って『スタン・ハンセンだ!』と。知っていて嘘をつくというのは、そういう意味なんです。自慢げに話させていただけるなら、我ながらいい実況だったと思っています。うろたえながらしゃべったんですが、見事にその状況を描写できたんじゃないかと」

 試合は16分過ぎ、ブロディが場外に転落したテリー・ファンクをハンセン目がけて振り、左腕を上げた"不沈艦"がウエスタンラリアットを見舞う展開となった。倉持は「おっと外ではウエスタンラリアート! ウエスタンラリアートが見えました。スタン・ハンセンはとうとう手を出しました」と、全日本のマットで初めて披露されたハンセンの必殺技を実況した。

「ハンセンの試合はテレビ朝日で見ていましたから、ウエスタンラリアートが必殺技だということは知っていました。それをそのまま描写したということです」

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