ブッチャーがテリーの右腕をフォークで「えぐり抜きます!」。全日本プロレスの名実況アナが振り返るまさかの瞬間 (2ページ目)

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji

ブッチャー、まさかのフォーク攻撃

 その記念すべき第1回となった同大会には、馬場&鶴田組、大木金太郎&キム・ドク組など9チームが参加。その最終戦となった蔵前でのメインイベントを、ザ・ファンクスとブッチャー、シークが務めたが、この試合の勝者がリーグ戦を優勝する大一番だった。

長く全日本プロレス中継の実況を務めた倉持さん photo by 松岡健治長く全日本プロレス中継の実況を務めた倉持さん photo by 松岡健治この記事に関連する写真を見る 倉持の記憶に強く残っているシーンは、ブッチャーがテリー・ファンクの右腕をフォークで突き刺した凶器攻撃だ。

「放送席で、ブッチャーがフォークでテリーの右腕を刺した時はビックリしましたよ。ブッチャーの凶器攻撃は毎試合のように実況していましたけど、まさかフォークを出すとは思ってもみませんでした」

 ブッチャーの凶器攻撃があったのは9分過ぎ。放送席で倉持は「あっ! フォークだ。フォークだ。フォークですね。フォークを刺しました」と驚きをストレートに表現した。その後もフォーク攻撃が続く展開に、「スリルとサスペンス。そして凶器でえぐり抜きます! 大変です。テリー・ファンクの右腕。ダラダラと流れる血!」と叫んだ。

 観客席から悲鳴が上がった凄惨なシーン。倉持は自身の実況をこう振り返った。

「僕は『えぐる』という言葉を使ったんです。『えぐった』って強い言葉ですよね。実際、ブッチャーはえぐってはいなくて突いただけ。だけど僕は『テリーの右腕がえぐられたぁぁぁ』って言ってしまったんですよ。それほど、僕自身が(ブッチャーが)フォークを使ったことに驚いたんです。おそらく、スポーツ中継の実況で『えぐる』っていう言葉を使ったのは僕が初めてなんじゃないでしょうか。それが、よかったのかどうか......今でも僕の中で結論は出ていません」

 試合から45年を経た今も、倉持は「えぐる」と表現したことに迷っていた。ただ、その過激な表現が、ブッチャーが繰り出す凶器攻撃の凄惨さを際立たせ、耐えるテリーに対して視聴者が感情を傾ける効果があったことは事実だろう。

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