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「井上尚弥は違う銀河系にいる」。ドネア戦を実況した米アナが「いつもと違った戦い方」や今後、PFPなどを語り尽くした (2ページ目)

  • 杉浦大介●文 text by Sugiura Daisuke
  • スエイシナオヨシ●撮影 photo by Sueishi Naoyoshi

いつもの戦い方と違った点

『ESPN+』で井上vsドネアの実況を務めたアードマン氏 photo by Sugiura Daisuke『ESPN+』で井上vsドネアの実況を務めたアードマン氏 photo by Sugiura Daisuke 私は今回、井上がドネアにKO勝ちを飾ると予想していました。ふたりの第1戦は、たとえるならエリック・モラレス(メキシコ)が、キャリア晩年に若いマルコス・マイダナ(アルゼンチン)に善戦した試合のような感じで、"レジェンド"と称されるベテランの「最後の輝き」だったように思えました。

 ドネアは過去2戦でノルディーヌ・ウバーリ(フランス)、レイマート・ガバリョ(フィリピン)を相手にいい試合をしましたが、もう39歳。井上は第1戦でもドネアをボディブローでKO寸前に追い込んでいるため、今回は井上が明白に力の差を見せつけると思っていたんです。ただ、それでも2ラウンドでドネアを倒してしまうとは考えませんでした。

 ドネアは、誰が相手でも左フックを当ててチャンスを作れる選手ですから、序盤に何らかの見せ場が訪れると思っていました。実際に初回、ドネアの左が井上の顔面をかすめ、井上も試合後に「おかげで立て直すことができた」というコメントを残しましたね。しかし、そのパンチ以降は完全なワンサイドファイト。井上は大きな差を見せつけました。

 ほとんどのボクサーは、パンチを打つ時にスピードかパワー、どちらを重視するかを選択しなければなりません。素早いコンビネーションを出す際には100%の力は込められず、一方で強打を放つ場合には連打が難しくなるもの。しかし井上は、KOパンチをコンビネーションで放つことができる。今戦の2ラウンドも、アウトサイドからの素早いパンチでドネアに致命的なダメージを与えました。

 前に出ても、下がってもいい。どちらの距離でも戦えることも長所と言えます。これまでの試合で、井上は前に出て相手を追う戦い方をしていましたが、ドネア戦では少し違いました。相手の左フックが届かない位置に立ち、それでいてスピードとパワーを保ち、ドネアを打ちのめしたんです。

 井上に弱点らしきものはほとんど見当たりませんが、ドネアとの再戦を実況する前に、多くの映像を見たなかで唯一、懸念したのは右目の状態です。

 ドネアとの初戦で眼窩底骨折を経験したあと、右目の形が少し変わったように感じました。眼窩底骨折は、選手のキャリアを変えかねない深刻なケガです。井上がそうならなかったことは嬉しいですし、現代ではそれほどのケガを治療できるほど医療が進歩したことも喜ばしい。おかげで、私たちは彼のキャリアをまだ楽しめるのですから。

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