女子レスラー林下詩美、「ビックダディ三女」と呼ばれる葛藤。「本当の自分は見てもらえない」

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko

■『最強レスラー数珠つなぎ』女子レスラー編
「スターダムの逸材」林下詩美 前編

 2018年7月、とあるニュースがスポーツ新聞各紙を賑わせた。

「ビッグダディ三女、来月プロレスデビュー」

 テレビ朝日系の大家族ドキュメンタリー番組『痛快!ビッグダディ』で人気を博した"ビッグダディ"こと林下清志の三女・林下詩美が、女子プロレス団体・スターダムのプロテストに合格。8月12日、後楽園ホールにてデビュー戦を行なう――。

 このニュースはネットでも大きく取り上げられ、瞬く間に世間に知れ渡った。三女って、どの子だ? 確か、姉妹でグラビアデビューしたんじゃなかった? プロレスやれんのか? さまざまな声が飛び交う中、プロレスファンはどこか冷めていたように思う。「どうせ話題作りだろう」――。

 その後の彼女の快進撃を予想していた人は、この時ほとんどいなかった。

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デビュー当初、ビッグダディの三女として紹介されることが多かった林下 (写真/「スターダム」提供)デビュー当初、ビッグダディの三女として紹介されることが多かった林下 (写真/「スターダム」提供)この記事に関連する写真を見る 林下詩美の生まれは静岡県湖西市だが、全国を転々とし、小学校2年生の時、奄美大島に辿り着いた。同時にテレビの撮影が始まり、365日中およそ350日は番組ディレクターたちと共に過ごす奇妙な生活がスタートした。

「常にテレビ局の方が3人は家にいましたが、みんな仲がよかったです。撮影されて嫌だと感じたことは一度もなかったですね。本当に家族のように接してもらっていました」

 林下家にはテレビがなく、自分がテレビに出演している実感はなかったという。放送の翌日、学校に行くと机の周りに人だかりができたが、奄美大島の子どもたちは朗らかで、からかわれたりすることもなかった。しかし小学校卒業後、愛知県豊田市、香川県小豆島、岩手県盛岡市と引っ越しを重ねるうちに状況が一変。クラスメートたちから特別視されるようになる。

「こっちは友だちだと思っていても、あっちからすると友だちじゃなかったというか。『私、ビッグダディの娘と友だちなんだよ!』みたいな紹介をされたり。私に聞こえるくらいの声で陰口を言われたこともありました。学校は楽しくなかったです。人見知りになってしまった」

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