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「つないだ手は離さない」。
ボクサー栗生隆寛を引退まで支えた父の思い (5ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO


「口は出さない。ただ、つないだ手を離してはいないよと伝えたかった」

 きっと、その思いは通じていた。

 粟生は「あの人、口下手なんです。人前では感情を表情に出さないですしね」と父の印象を語る。

 高校3年の国体で優勝し、高校6冠を達成。リングから降りた瞬間、客席の父と目が合った。粟生以外なら、仏頂面に見えただろう。だが、粟生は一瞬でわかった。

「あ、喜んでる」

 当時、史上初となる高校6冠を達成した高校時代、粟生にはボクシング以外で忘れられない思い出がある。

 ある日、理由は忘れてしまったが、父と腕相撲をすることになった。父の手を握って「レディーゴー」の掛け声を発した直後のことだった。

「高校1年だったかな。ゴーって言った瞬間、『勝てちゃう』って感じたんです。親父は絶対的な存在というか、超えちゃいけない存在みたいに感じていたんでしょうね。力を抜いて、わざと負けたんです。あの時、なんか、うん、なんとも言えない気持ちになったのを、今でも覚えています」

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