2020.06.21

「つないだ手は離さない」。
ボクサー栗生隆寛を引退まで支えた父の思い

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO

父の日プレゼンツ
ボクシング・粟生隆寛の「父子鷹」

 粟生隆寛は、ボクシングと出会った日のことを覚えていない。

 ホームビデオに映る幼き日の自分の姿を見て、父を相手に初めてミット打ちをしたのが3歳であったことを知る。

2009年3月、粟生隆寛はついに世界チャンピオンになった 父・広幸さんが25歳の時に、息子・隆寛は生まれた。

 当時、プロテストの受験資格は29歳まで。以前から格闘技が好きだった広幸さんは、28歳の時に一念発起し、近所のボクシングジムに入門。プロを目指した。3歳だった粟生も父に連れられ、一緒にジムに行くことが日常になる。

 しかし、仕事中のケガにより、広幸さんは指の腱を切るケガをしてしまい、プロになることをあきらめざるをえなかった。粟生親子の物語は、果たされなかった父の夢を息子に託し……というものではない。

 粟生が振り返る。

「もちろん、親父がうまくボクシングをやるように導いてくれたんだと思います。ただ、『ボクシングをやれ』と強要されたことは一度もなかった。

 子どもって父親と遊ぶのが好きですよね。ボクシングが父との遊びの一環で、よその家で親子がキャッチボールをやるように、うちでは親子でミット打ちが日常の風景だったんです」